デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

ソ連秘密警察リュシコフ大将の日本亡命

2024-08-10 17:12:52 | 買った本・読んだ本
書名 「ソ連秘密警察リュシコフ大将の日本亡命」
著者  上杉一紀     出版社 彩図社   出版年 2024

ソ連の大粛清で指揮をとっていたソ連秘密警察の大物が、極東からモスクワに召還されると知って、間違いなく処刑されるだろうと察知、満洲との国境で亡命を図った。本書はこの亡命からソ連侵攻後関東軍によって殺害されるまでの足跡を丹念にたどったノンフィクションである。一気に読んだ。そしてつくづく思うのは、この男は歴史の闇の中にしか居場所がないだろうなということである。なぜ亡命したのか、それは身の危険を感じたからであったことは間違いないだろう。リュシコフが自ら指揮をとったソ連史の暗部となる粛清の政治学をおさえていることによって、彼が身の危険を感じていたことを実証するその説得力を増すことになった。
亡命後、もしかしたらソ連が派遣したスパイではないか、そう思う日本側の諜報機関の人間がいても不思議はない。その意味でもソ連のスパイだったゾルゲの動きを視座に入れていたのは、この謎の男の周辺を探るうえではよかったのではないかと思う。
この本に触発され、「謎の亡命者リュシコフ」という西野辰吉の本も読んだが、この男は歴史の闇にしか存在しえない、そんな運命にあったのだろうとあらためて思った。西野の本に収められているリシュコフ自身の書いた現ソ連共産党批判や彼自身の手記を読んでも、スターリン体制を批判するにもなにか力がないというか、まっとうなことを言っているはずなのに説得力を感じないのは、彼自身が血の粛清に手を汚している人間で、命が惜しくて逃げてきたということがある。
闇の中で生きる宿命にあった人間をなぜいま掘り起こされようとしているのか、それはスターリン体制の闇をそっくり受け継いだとしか思えないウクライナ侵攻を続けるプーチン体制の闇の正体を暴きたいということがあるのかもしれない。その意味で、西野の本ではほとんど登場しなかった、勝野金政の存在が大きかった。リュシコフとも一緒に仕事した勝野は、ソ連の粛清に巻き込まれ、実際にラーゲリを経験して、そこから脱出、ソ連の暗黒の部分を身をもって体験した人間、日本に帰ってから徹底してソ連を告発する仕事をしている。自らの生きざまで、反ソを生きることになった。その反ソが、かつてソ連に寄り添っていた男がやっている、それは裏切りではという目で見られていたことろもあった。実際共産党の転向者には本書にでもでてくる田中清玄や、高谷覚蔵とか、なにか胡散臭い人間も多い。だが勝野の反ソは筋が通っている、それとリフシェフの日本での活動を呼応させることで、スターリン制の闇を告発している、そんなようにも読めるような気がする。
謎の人物の全貌を明らかにするのは難しい、ただいろいろな意味で情報操作、収集が、いまほど重要な意味をもつ時代はないときに、その足跡を追ったことは、重要な意義をもつことになったのではないだろうか。
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