書名 「シベリアのビートルズ イルクーツクで暮らす」
著者 多田麻美 出版社 亜紀書房 出版年 2022年
久しぶりに購入した本。仙台に行ったとき書店で見つけ、なによりイルクーツクで暮らすというサブタイトルに惹かれ、絶対読みたいと思った。横浜の図書館で借りようと思ったら予約20名待ち。書評で紹介されたようで、とても待ちきれず購入した。
もともとライターの方ということで、達者な読ませる文章で、あっという間に読了した。著者のパートナースラバは大のビートルズマニアの美術家、そして著者も海外での生活をこなし続け、北京で中国のアートを紹介してきたライターというなかなか普通ではない人たちの人生が、イルクーツクというシベリアの街で重なっていくというのが、興味深い。音楽、なによりビートルズを核にして、スラバのところに集まってくる、よく紹介されるロシア人たちとは違う肌合いの人たちの巧みな描写からカジュアルなロシアが浮かび上がってくるのが、とてもいい。このところ戦争になって、プーチンやワグネルの軍人たちばかりテレビで見せつけられているので、なんとなく自分にとっては懐かしさ感じるような、ちょっと一癖あるが、いい奴らのロシア人たちに会えて、ほっとしてしまった。モスクワでもなく、サンクトでもなく、わが石巻の漂流民たちが暮らしていたイルクーツクが舞台というのがいい。地方都市だからこそ透けて見えてくるロシアのいまがここにある。当然戦争後のことも書かれているのだが、例えば「街全体の空気がささくれ立っているのに気がついた。売店や待合室などでイライラしている人が以前より増え、不機嫌な調子で怒られたり、注意されたりした。・・・人々が文句や自分の意見を自由に主張できない状態が続けば、社会が徐々に集団ヒステリーに近い状態になるのではと、そら恐ろしくなることさえあった」というような描写を読むと、日常の生活では見えない、いまのロシア人の真情に触れたような気がした。
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