書名 「熱源」
著者 川越宗一 出版年 2022 出版社 文藝春秋社(文春文庫)
最近気になっているサハリンやアイヌをテーマにした小説ということで飛びついた。教えてくれたのは兵庫県でキノコ文化の普及をよびかけ、日本史をはじめ文化歴史に独自の視点で迫る「月のしずく」という機関紙の記事だった。明治に樺太で生まれたふたりのアイヌの生きざまと、リトワニアに生まれ、樺太に流刑されたポーランド人の文化人類学者ピウスツキという実在の人物の生きざまを交錯させた、壮大な歴史小説。圧巻の迫力、一気に読み終えた。明治からソ連の樺太進撃までを、さまざまな実在人物をこれでもかこれでもかと盛って、歴史絵巻までに昇華させたのはお見事というしかない。
樺太は、かつてはロシアと日本が北と南を分け合って領有していた、しかしそのどちらも元々住んでいたわけではない、もともとはアイヌたちが住んでいたところである。北方四島を含む千島列島もそうである。日本とロシアの領土争いばかりが問いただされるが、そこにもともと住んでいたのはアイヌはじめ先住民たちであった。ふたりのアイヌの主人公たちの一貫した行動指針は、アイヌという民族を失わせてはいけないということだった。この小説の面白さは革命家、逮捕、流刑、アイヌの出会い、ヨーロッパに戻ってのポーランド革命への参画とまさに数奇な人生をおくったピウスツキを重厚にからましていったことである。彼のアイヌ愛というか、アイヌ発見がこの小説を圧倒的に面白くした。最後のサハリン侵攻してきたソ連女子兵士が、アイヌの唄を聞いたときのエピソードは胸に迫ってきた。
ピウスツキに関する本は何冊かあるようだし、サハリン紀行を書いた梯久美子はその中で、ピウスツキについて書きたいと書いていた。かなり気になる人物であることは間違いない。
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