ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

朝鮮時代の絵師李巖と、宗達・蕪村・若冲のイヌの絵いろいろ

2010-09-11 13:39:52 | 韓国・朝鮮関係の知識教養(歴史・地理・社会等)
       

 2008~09年、栃木・静岡・岡山の各県立美術館と仙台市博物館で開かれた、「朝鮮王朝の絵画と日本」と題された展覧会の図録を今日友人からもらい受けました。
 そういう展覧会が開かれたことさえうかつにも知りませんでしたが、図録を見ると非常に充実した展覧会だったことがうかがわれ、観に行かなかったことが残念です。

 図録は分厚いだけでなく、載っている絵画作品が朝鮮の絵師のものが196点、日本の絵師のもの130点もあり、そのすべてに詳しい解説が付いています。
 また朝鮮王朝の絵画についての概説や、朝鮮絵画史年表等もあり、作品リストはハングル表記のもあって、実に懇切。この内容で2800円は安いと思います。(美術館連絡協議会で特別賞を受賞したというのもナットク。)

 この展覧会の概容は2回も足を運んだ方の<Art & Bell by Tora>(1回目2回目)をご参照ください。この方の要望で栃木県立美術館は展示作品リストをサイト内にupしてくれてます。
 リストからわかるように、韓国各地、そして日本各地から、よくこれだけの作品を集めたものです。5万ウォン札の図柄で知られる申師任堂の絵もあります。

 さて私ヌルボ、もちろん図録は今後じっくり目を通すこととして、今回はイヌの絵に絞って紹介します。(9月1日の記事でネコの絵をとりあげたので・・・。)

 まず図録で目についたのが表紙のイヌの絵。16世紀半ば李巖(이암.イアム)「花下遊狗図(화하유구도)」。3匹の犬の表情がなんとものんびりした感じでカワイイです。日本民芸館所蔵、・・・って、見た記憶がある、と思ったのは6月11日に行った時かな? (年のせいか、見たという確たる記憶ナシ。)

     
     【李巖「花下遊狗図」。右は部分拡大図。】

 図録によると、以下の宗達蕪村、そして若冲の犬の絵も、上掲の李巖の作品の影響がみられるとか。な~るほど、です。
 具体的には、宗達の創案といわれる<たらしこみ>の技法も李巖との関連性が指摘されているとか・・・。

    
  【俵屋宗達「犬図」。どちらも形態がユニーク、というか・・・。】

    
     【与謝蕪村「狗子図」。顔が笑ってます。】

     
   【伊藤若冲「百犬図」。実は59匹だそうです。右は部分拡大図。】

 しかし<2chコピペブログ>を見ると、こういうジャンルにも熱心な嫌韓派の人たちがあれこれカキコしているのは感心します。レベルはピンキリですが・・・。
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韓国の児童書「宿題株式会社」を読む

2010-09-10 12:33:29 | 韓国の小学生~高校生向き小説・物語
       

 1ヵ月前に川崎市立図書館で借りた児童書キム・チャファン著「宿題株式会社(숙제주식회사)」を読了しました。
 1996年刊行で、今は絶版になっている本です。
 たまたま図書館で何か読みやすそうな本を、と物色し、韓国の夏休みはどんな感じかな?と思って選びました。

 読んでみると、現実の学校の話ではなく、少し理想化された架空の<日光子ども学校(햇빛아린이학교)>が舞台。その学校の守衛さん(実は元社長の学校設立者)が校長先生(実は元社長秘書)に提案して、学校の基本計画を子どもたちの意志に任せることにします。
 そしてさっそく提起されたのが「夏休みの期間をどうするか?」。子どもたちが話し合って決めた結論は「明日から3ヵ月間」。期間だけでなく、「20日間どこかに旅行する」等々その間の生活についても自分たちで決めます。

 「宿題株式会社」というと、古田足日の「宿題ひきうけ株式会社」を思い浮かべる人も多いかも・・・。1966年以来のロングセラーです。こちらは当時のいろんな社会問題が盛り込まれていますが、「宿題株式会社」は実社会の問題は出てきません。しかし、子どもたちがしっかりしている点は共通しています。物事をよく考えるし、自分の意見もしっかり述べるし。かったるそうな雰囲気はありません。(近頃の日本の子どもたちはどうなんだろう? ・・・と思ってアマゾンを見ると案の定「無気力な子たちとの戦いに疲れています」という先生のレビューがあったりして・・・。)

 「宿題株式会社」の主人公は6年生の子どもたち。夏休みに入って、宿題に苦労する(主に)下級生のために、各教科の担当者を決めて手伝ってあげるというもので、丸ごと代行するわけではありません。悩みごと相談担当の女の子もいます。

 ・・・理想的ですねー。子どもたちの自主性尊重が、という点だけでなく、子どもたちが信頼に応えて考え、話し合い、行動するということまで含めて。
たとえば6年生のいじめっ子が脅しをかけて自分の宿題を全部やらせようとします。家庭的に恵まれず愛に飢えている少年ですが、(いろいろあって)結局は友だちの仲間入り。
 最後は男子4人女子5人+先生2人で南海への旅行。暴風雨からテントを守りぬいたり、いろんな試練を経て精神的にも成長し、友情の絆が結ばれていく・・・。

 作者のキム・チャファンさんは2008年57歳で亡くなったそうです。あるサイトによると
自由な生活を愛した、麗水の代表的な作家であり教育者だったとのこと。
 韓国の子どもの多くは、ストレスが溜まるほど勉強に追われているとか・・・。この本はそんな現実に対して作者が「こうだったらいいな」という思いを作品化したものということでしょうか。

[韓国語の勉強]
샅바 =韓国相撲(씨름)で腰と右の太ももに締めるまわし。
용(을) 쓰다. =力を込める。(용は勇)
③あれ?と思ったのが、
작전을 쓰는 수밖에 없어.(作戦を用いるしかない。)
우리들의 힘으로 쓰는 수밖에 없어.(われわれの力で解決するしかない。)
 ・・・「쓸 수밖에」、「할 수밖에」のように未来連体形になるとは限らないんですねー。どういうふうに違うのか、今ひとつよくわかりません。
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韓国内の映画 Daumの人気順位 と 週末の興行成績[9月3日(金)~5日(日)]

2010-09-07 21:14:23 | 韓国内の映画の人気ランク&興行成績
 今後の韓国映画関係の情報を自分のメモ代わりに載せておきます。昨年の大ヒット作その1の「TSUNAMI ツナミ」(原題「海雲台」)は 9月25日(土)から全国ロードショー。もう予告編やってますねー。同じくその2の「国家代表!?」は10月23日(土)から全国ロードショー。その前、9月17日18時30分~<したまちコメディ映画祭>のオープニングセレモニーとして浅草公会堂で上映されます。
 情感溢れる民画の絵師申潤福を主人公にした「美人図」も9月25日(土)からシネマート新宿、シネマート六本木ほかで全国順次ロードショー。
 「冬の小鳥」(原題「旅人」)は10月9日(土)から岩波ホールでロードショー。
 カン・ドンウォン&ソン・ガンホ主演のヒット作「義兄弟」は10月30日(土)からシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかでロードショー。「義兄弟」の公式サイトによるとカン・ドンウォンの舞台挨拶付きジャパンプレミアが9月13~15日に東京・名古屋・大阪で開かれるんですと。チケットの一般発売は今日から! 詳細は→コチラ
 今年の秋には徴兵に行くと言われているカン・ドンウォンの徴兵前最後の来日らしいですよ。「この機会を逃すとしばらく、カン・ドンウォンに会えない!」ということだそうです。

   ★★★ Daumの人気順位(9月7日現在上映中映画) ★★★

【ネチズンによる順位】

①トイ・ストーリー3  9.4(470)
②アジョシ[おじさん](韓国)  9.4(4959)
③名探偵コナン:天空の難破船(日本)  9.3(350)
④聴説  9.3(203)
⑤ステップ・アップ 3D  9.1(385)
⑥アバター:スペシャルエディション  9.1(4980)
⑦ソラニン(日本)  9.0(26)
⑧キム・ポンナム殺人事件の顛末(韓国)  9.0(99)
⑨僕の初恋をキミに捧ぐ(日本)  8.7(117)
⑩ナニー・マクフィー&ザ・ビッグバン  8.7(42)

 ⑦と⑧が新登場。
 ⑦は私ヌルボ、映画は観てませんが原作の漫画は読みました。虚しさ・とりとめなさといったものがふつうに漂っている現今の若者世界の雰囲気は日韓共通になってきているのでしょうか?
 ⑧、カンヌ映画祭招待作。また7月の富川国際ファンタスティック映画祭では長編コンペティションでグランプリ。離れ小島で、5つの家の7人が殺害される事件を描き出すスリラー。どうも「東京島」に似た設定みたいですよ。ということは「アナタハン」という昔の映画(事実に基づく)に似ているともいえるわけです。つまり「男の中に女が1人」。主演女優のソ・ヨンヒは「チェイサー」で捕まってしまう女性のミジン役だった。観てないけど「アンティーク」にも出てました。タイトル、1文字ずつ区切って読めば「ポク.ナム」で、続けて読むと「ポンナム」。ネット上、表記まちまち。

【専門家による順位】

①アバター:特別編  9.3(8)
②キム・ポンナム殺人事件の顛末(韓国)  8.0(8)
③オーシャン・ワールド3D  8.0(1)
④ハハハ[夏夏夏](韓国)  7.7(10)
⑤インセプション  7.7(8)
⑥トイ・ストーリー3  7.7(5)
⑦The Kids Are All Right  7.3(6)
⑧サンキュー、マスター・キム(豪・日)  7.2(4)
⑨悪魔を見た(韓国)  7.1(7)
⑩Taking Woodstock  7.0(6)

 ②、⑦、⑧が初登場。
  ⑦、レズビアンの両親(?)ってのはともに女性ってことか。どちらも精子提供を受けて子どもを産んで、4人家族ってわけですか。現代ではありえる。ある日子どもたちが両親に黙って、生物学的父親を探し出して会うことに・・・という展開のコメディ・ドラマ。うーむ、今日び、このテの設定は突飛とはいえなくなってるのかなー・・・? 韓国題は「에브리바디 올라잇(エヴリバデイ・オールライト)」。
 ⑧は豪・日合作のドキュメンタリー映画。何だろうと思ったら、2008年NHK BSのハイビジョン特集で「JAZZ! 韓国の鼓動と踊る~オーストラリア人ドラマーの旅」と題して放映されたものです。オーストラリアのジャズ奏者サイモン・バーカー(ドラム)はある日韓国の打楽器奏者のCDを聴き、その響きの虜になった。その奏者は韓国の重要無形文化財キム・ソクチュル(金石出)だったが、入院中で会うことができない。その間バーカーはパンソリ歌手等々韓国の様々な伝統音楽の担い手と出会う。サイモンは彼らと一緒に演奏を始める。最後にキム・ソクチュルとの出会いが訪れるが・・・、という内容。トレーラーは→コチラ。YouTubeにも関連動画があります。韓国ウィキを見てみると、キム・ソクチュルさんは2005年世を去っています。

   ★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績[9月3日(金)~5日(日)] ★★★
         「アジョシ」が5週連続1位で500万人突破

順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・封切り日・・・週末観客動員数累計・・・・観客動員数・・・・上映館数

1・・アジョシ(韓) ・・・・・・・・・・・・・08/04・・・・・・・・・381,768 ・・・・・・・・・・・・・5,148,876・・・・・・・469
2・・キラーズ・・・・・・・・・・・・・・・・・09/02・・・・・・・・・180,870・・・・・・・・・・・・・・・212,014・・・・・・・330
3・・インセプション ・・・・・・・・・・・・07/21・・・・・・・・・・98,355・・・・・・・・・・・・・5,763,778・・・・・・・266
4・・悪魔を見た(韓)・・・・・・・・・・・08/12 ・・・・・・・・・・94,647・・・・・・・・・・・・・1,731,527・・・・・・・307
5・・エアベンダー ・・・・・・・・・・・・08/19・・・・・・・・・・・87,418・・・・・・・・・・・・・1,325,141・・・・・・・278
6・・ピラニア 3D・・・・・・・・・・・・・・08/26・・・・・・・・・・・86,332・・・・・・・・・・・・・・・435,839・・・・・・・286
7・・花木蘭・・・・・・・・・・・・・・・・・・09/02・・・・・・・・・・・77,127・・・・・・・・・・・・・・・・89,583・・・・・・・275
8・・アフター・ライフ・・・・・・・・・・・09/02・・・・・・・・・・・75,599・・・・・・・・・・・・・・・・88,718・・・・・・・216
9・・キム・ポンナム・・・・・・・・・・・09/02・・・・・・・・・・・36,689・・・・・・・・・・・・・・・・40,843・・・・・・・・75
    殺人事件の顛末(韓)
10・・プレデターズ・・・・・・・・・・・・08/26 ・・・・・・・・・・35,387・・・・・・・・・・・・・・・262,320・・・・・・・248

 1位「アジョシ」は5週で500万人を超えました。
 今週は軒並み観客数がかなり減少。台風コンパス直撃と関係があるのかな?
 新登場は2・7・8・9位の4作品です。
 2位「キラーズ」はアメリカでは6月公開のアクション・コメディ。旅先で出会い、結婚したカップルが、夫の秘密から暗殺者に命を狙われることになる、という話は既視感があるぞ・・・。日本公開は未定。
 7位、米・中合作の歴史アクション。舞台は北魏、って隋のちょい前の鮮卑族の王朝。木蘭の物語はウィキによると中国に昔から伝わっていて、京劇だの小説だの、さまざまに脚色されているんですねー。ヒロインを演じるのは何かと話題の多いヴィッキー・チャオ。韓国題は「뮬란: 전사의 귀환(木蘭 天使の帰還)」。日本公開未定。
 8位、自動車事故で即死した女性教師が葬儀屋に運ばれてきて、その葬儀屋がなんと!天国に行ってない魂と会話ができるという葬儀屋で、死者がまだ自分の死を認めていない状態で・・・、って何なんだ、これは!・・・というアメリカのホラー映画。「おくりびと」を観てくださいよ、アメリカの皆さん・・・。これも日本公開未定。
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韓国映画「亀、走る」 忠清道のローカル色がまったり漂う

2010-09-06 23:48:23 | 韓国映画(&その他の映画)
 シネマート新宿で韓国映画「亀、走る」を観ました。
 主演はキム・ユンソク。2007年「タチャ イカサマ師」で大鐘賞などで助演男優賞を受賞し、翌2008年には「チェイサー」で大鐘賞ほかで主演男優賞6冠王。最近一気に国民的な人気俳優になったようですね。昨年はカン・ドンウォンと共演した「田禹治伝」もヒットしたし・・・。

 この「亀、走る」も昨年の作品。キム・ユンソク演じる刑事が凶悪な脱走犯を追う、という設定ということで、「チェイサー」の印象もあって緊迫感漂うアクションかな、と思ったのですが、全然違うフンイキ(笑)。

 舞台は忠清南道の礼山。ローカル色漂う映画です。
 忠清道といえば、「忠清道人は話す速度が遅い」とよく言われるそうで、おなじみの笑い話があります。
 父子が山で畑仕事をしていたら上から岩が転がり落ちてきた。息子は「아부지~ 바위가 굴러가유~!」(お父さ~ん、岩が転がっていきますよ~!)と叫ぶのですが、あまりに話すのが遅くて、言い終わる前にお父さんは岩に当たって死んでしまったという話。(助かるバージョンも見たことがありますが・・・。)

 この映画も、主役の刑事ももっさりしたオジサンで、漫画貸本店をやってる奥さんには頭が上がらず、その奥さんの通帳をこっそり持ち出して闘牛大会に賭け、ガッポリ大金をせしめたかと思ったら盗られちやったり、肝心の脱走犯を捕まえに行っても逆にやられちゃったり等々、なさけない・・・の連続。

 しかし、まあ最後はなぜかメデタシで終わるし、「チェイサー」みたいに何人も殺されたりしないし、まったりゆったりと楽しめた映画ではありました。

 ふと思ったのですが、私ヌルボ、忠清道方言を聞いたのはこの映画が初めてかも・・・。本では、個人的に韓国マンガ最初の感動したカン・モリムの佳作「タルレと私と」に始まっていろんなところで目にしてきたのですが・・・。この映画の最初の方で語尾の「~シュー」「~ユー」というのを聞いて、ああ、これが忠清道方言で、ここが忠清道なのか、とわかった次第です。

※標準語“안녕하세요”→ 忠清道“안녕하세유”
 標準語“괜찮습니다.”→ 忠清道“됐슈”
 標準語“어서 오십시오” → 忠清道“빨리와유”

※慶尚道方言なら「チング」「学生府君神位」「僕が9歳だったころ」、全羅道方言なら「木浦は港だ」などが思い浮かびます。(「トンマッコルへようこそ」が江原道方言というのは、あんまり印象がないですが・・・。)
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韓国ドラマ「英雄時代」を読み解く[16]  日本人の職人気質に感銘したテホ(こと李秉喆)

2010-09-03 23:49:06 | 韓国ドラマ
 先の記事で記したように、このドラマの副主人公クク・テホ(国大虎)の人生はサムスンの創業者李秉喆(イ・ビョンチョル)
の経歴をほとんどなぞっています。
 ドラマ中にあるように早稲田に留学し、それ以後もたびたび日本に行って、いろんなことを学び取っています。そして日本人の職人気質を高く評価しています。

 たとえば第12話。
 ククス(蕎麦)に目を向けたテホは製麺に乗り出します。試作品を食べたテホの感想は、「中国のよりはマシだが、日本製には及ばない。」 さらに「イッショーケンメイ(←日本語)。日本の職人はひとつのことに命を懸ける。」
 また第19話では、テホたちが日本の街を歩いている場面があります。「サイパンも陥落したそうだ」と話しているので、1944年でしょう。
 「本家うばがもちや」という看板が見えます。
 テホ「あの店だ。餅を買っていこう。」 
 「これが日本の大本営を打ち負かした餅か。」
 テホ「満洲の関東軍に供給する餅を100万個注文したらさっきの主人が断ったそうだ。」
 「相当な利益があるだろうに主人の頭は確かなのか。」
 テホ「代々続く誇り高き老舗だ。1度に100万個造っては味が守れないと言って目の前の利益より誇りを選んだ。それが日本人の職人意識だ。・・・我々も日本を知らねばならぬ。敵を知れば百戦百勝だ。」


 職人意識については、李秉喆に関する新聞・雑誌の記事にもしばしば記されています。韓国語だと「장인정신(匠人精神)」

 大邱の地方紙「毎日新聞」は今年元日から2月10日、7回に分けて[호암 이병철 탄생 100년(湖巖 李秉喆誕生100年]を連載しました。その中で<장인정신으로 사업하라(匠人精神で事業しろ)>という記事があります。
 そこで紹介されているのは、日本の床屋さん。
 1950年東京に行った時、李秉喆は、赤坂の街灯もない裏道の理容店に入ります。入口の看板に「森田」とある何ということのない理容店で、彼は40歳前後の主人になんとなく話しかけます。
 「理髪の仕事はいつから始めたの?」 
 「私が3代目で、家業となってからかれこれ60年ばかりになりますね。息子のやつが後を継いでくれたらと思うのですが・・・」

 ・・・とりたてて意味のない雑談だったが、ふつうの言葉とは聞こえなかったとのことです。敗戦で挫折しているはずの日本で、淡々と代を次いで一筋の道を生きているのです。その職業意識に驚いた、と彼は自叙伝「湖巖自伝」に記しています。
※昨年末赤坂を訪ねた「毎日新聞」の記者は、森田理容店が4代目、創業132年になっていることを確認しています。

 李秉喆は1592年創業の菓子店・虎屋1586年創業の松井建設、そして大阪や京都等にも行って、ずっと昔に創業した企業や老舗を直接見て周っています。
 また1964年李秉が韓日国交正常化のための対日請求権会談で訪日した時、予約した時間から「1時間遅れて築地のふぐ料理店に行ったら主人にひどく怒られた」というエピソードが紹介されています。時間に合わせて料理を作ったのに、ずいぶん遅く来たので味が台無しになったというわけです。ここでも李秉喆は日本人の徹底した職業精神に感銘を受けたといいます。
 このような経験をふまえて、サムスンでは品質管理に早くから取り組んだ、と記事は続いています。

 「英雄時代」の19話で、テホは敗色濃厚の日本の状況を観察して分析します。
 「日本は追い込まれている。だが目標に向かって団結する力は日本の国民性といえる。そしてこんな時でも自らの職人意識を守っている。それが憎くもありうらやましくもある。日本は戦争に負けてもすぐに立ち直るだろう。私にはそれが見える。」
 テホの言葉ではありませんが、第12話で、テホが満州に仲間のドンホを訪ねた際、「朝鮮物産陳列館 朝鮮商工業者大会」という看板が掛かった建物で、現地の商売人は「朝鮮でも満州でも日本人は정려(精励.よく働く)だ」と語っています。

 このように、韓国のドラマにしては、日本人の職業意識をずいぶん高く評価していると思います。ただ、日本人に対する称賛というよりも、現代の韓国人に対する教訓のように聞こえます。

 その一方で、韓国人としての自尊心を示すテホのセリフもちゃんと入っています。
 第17話、テホ親子の会話です。
 息子「アボジ、緑茶は日本のお茶だと聞きました。」 
 テホ「それは誤解だよ。我々は三国時代から緑茶を飲んでいた。それが日本に伝来したんだ。統一新羅時代はもちろん三国時代にも日本は百済の影響を強く受けたのだ。実際百済の人々は日本に渡っているんだ。」
 息子「なのになぜ今は属国になったのですか?」
 テホ「朝鮮後期に鎖国政策を敷いたのが決定的な間違いだった。西洋の文物を排斥した。1000年以上日本に影響を与えながら、最後の100年を誤ったために国を奪われたのだ。」

※第20話で、大富豪のオルシン(カン・ユングン)もテホと碁を打ちながら「囲碁は三国時代に百済が日本に伝えてやったそうだ」と言ってました。
※「朝鮮後期に鎖国政策を敷いたのが決定的な間違いだった」というのは私ヌルボも同感。具体的には1800年の正祖の突然の死(老論派による毒殺説もある)の後、彼と対立していた貞純王后が政局をリードし、1801年辛酉教難といわれる天主教弾圧事件で清国人宜教師の周文謨をはじめ300余名を処刑した。姜在彦「歴史物語 朝鮮半島」(朝日選書)には「以後80年間西洋研究は欠落したままだった」とある。

 テホ=李秉は上記のように知日家であり、克日(日本に打ち克つ)を目指した人物ですが、植民地時代に事業を展開するにあたっては当然総督府等とのコミュニケーションが必要だっただろうし、親日的な面も否定できないでしょう。
 第20話、戦争が終わり、韓国では光復を迎えて、日帝時代に儲けた店や工場が打ちこわしの対象になります。大邱の三星商会の製麺工場にも暴徒が乱入します。このあたりは、ドラマでは第三者的にサラッと流しています。「親日派」を擁護するわけにもいかず、またテホを批判するわけにもいかず、ということでしょうか。
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韓国ドラマ「英雄時代」を読み解く[15]  大地主の息子テホ(こと李秉・サムスンG創業者)

2010-09-02 19:46:32 | 韓国ドラマ
 ドラマ「英雄時代」の副主人公クク・テホ(국대호.国大虎)のモデルは、もちろんサムスングループを創業した李秉(イ・ビョンチョル.이병철)です。

 彼の生涯は1910~87年。ということは、今年がちょうど生誕100年。誕生日の2月12日前後には、生地慶尚南道宜寧郡やソウル、三星紹介開業の地大邱などでさまざまな催しが開かれました。

   
  【今年2月12日、生家で開かれた李秉生誕100年記念の儀式。】

 またサムスンの<御用新聞(過去?)>の「中央日報」はもちろん、各紙・各メディアで特集が組まれました。

 彼について、あるいはサムスン・グループについて書こうとすると、記事の本数が数十本になってしまうので、とりあえずドラマ「英雄時代」に直結する事項に絞って2本ばかり記します。

 両班とはいっても決して裕福ではなかったテサンに比べ、テホは地方の資産家の息子です。これは十分ドラマから読みとれますね。若いのに料亭の常連で、妓生の総上げなんかやっちゃったりして・・・。早稲田に留学した、というのも李秉の経歴そのまま。(健康上の理由で中退するのですが・・・。) その後1936年父からもらった300石の農地を元手に馬山で精米所を始めて事業に乗り出し、さらに運輸業も兼ねて儲けた金に、銀行から借りた資金を上乗せして661haの農地を集積したものの、日中戦争勃発による銀行の貸金回収圧力で大失敗するのも李秉の実体験。
 それでもテホは(李秉も)朝鮮各地だけでなく中国各地にまで足を運んで事業の構想を練ったりするわけですから、まさに「財力の余裕」=「心の余裕」といった感じでうらやましいかぎりです。(おっと、ホンネが・・・。)

 さて、前述のように慶尚南道宜寧郡にある李秉の生家ですが、2007年11月彼の20周忌に合わせて一般開放されるようになりました。

 彼の家柄は<청석꾼(チョンソックン)>、つまり千石取りの大地主だけあって、家屋敷もすごいです。来客用のサランチエ(사랑채)と母屋のアンチェ(안채)が別棟になっていて、敷地は1884㎡。

  
  【少年時代に毎朝20分の道を通った書堂(祖父が建てた)も保存されている。】

 今年1月に生家を探訪した人の記事を読むと、「定型的な背山臨水」という風水学上の理想的な所だとか、近隣に<富豪岩>といって、そこに座った道人が富豪の出現を予言したとか、もうとっくに伝説が生まれているようです。
 その岩から8㎞以内には、李秉の生家以外にも、LGグループの創業者具仁会(구인회.ク・イネ)、暁星(ヒョソン)グループの創業者趙洪済(조홍제.チョ・ホンジェ)の生家もあるそうです。どれも社名に星の字が入っています。
※LGはウィキによればLuckyのLとGOLDSTARのGを組み合わせたもの。私ヌルボは、Gは以前の社名<ラッキー金星>の金星=geumseongの頭文字かな、となんとなく思ってましたが、違うんですね。

 続きは、李秉の知日・克日(・親日?)についてです。

※関連サイト→宜寧郡のサイト中の<世界的な人物>
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[朝鮮時代の絵画] 卞相璧(ピョン・サンビョク)の「猫雀図」その他ネコの絵いろいろ

2010-09-01 23:48:18 | 韓国・朝鮮関係の知識教養(歴史・地理・社会等)
 下の写真は私ヌルボお気に入りのマグカップです。数年前、初めてソウルの国立中央博物館に行った時にミュージアム・ショップで購入した物です。

  
     【お値段も手ごろだったし・・・。】

 カップの図柄の、上を向いた猫の姿と毛色の形がなんとなく気に入って買ったのですが、その後韓国の名画集のような本を見ていて、これが卞相璧(변상벽.ピョン・サンビョク.1730~?)(변상벽.ピョン・サンビョク.1730~?)の「猫雀図(묘작도)」という有名な絵に描かれている猫を図案化したものだということを知りました。

   
【卞相璧「猫雀図」。木に登っている子猫と下の親猫の目が合っている。】

 この絵は国立中央博物館にあり、大きさも97.3X43.0㎝。しかし訪れた時は睡眠不足でボーッとしていたためか見た記憶がありません。

 さて、この卞相璧ですが、韓国のウィキによれば英祖の御眞(肖像)製作にも関わった絵師で、ネコと鶏を巧みに描き、<卞猫(변묘)>や<卞鷄(변계)>と言われたとか。

 卞相璧の描いたネコの絵には、他に下の「菊庭秋猫(국정추묘)」等たくさんあります。

   
 【卞相璧「菊庭秋猫」。いい雰囲気の絵です。】
卞相璧について少し探索していくと、<내가 만난 그림, 내가 만난 세상(私が出会った絵、私が出会った世の中)>という韓国サイトの中に、<조선시대 고양이 그림(朝鮮時代ネコの絵)>という記事がみつかりました。

 この記事で紹介されているネコの絵の中に、卞相璧より15歳年下の金弘道(김홍도.キム・ホンド.1745~?)の作品「黄猫弄蝶」もありました。「シルム」などを描いた「檀園風俗図帖」で有名で、ドラマ「風の絵師」にも出てきましたね。

  
     【金弘道「黄猫弄蝶」。民画とは別の魅力。】

 檀園・金弘道、「風の絵師」でムン・グニョンが演じた恵園・申潤福(신윤복.シン・ユンボク. 1758~?)・・・)とともに<三園>と称された吾園・張承業(장승업.チャン・スンオプ1843~97)も「猫雀図」を描いてます。彼は映画「酔画仙」の主人公。時代的には金弘道の1世紀後なんですね。

    
  【張承業「猫雀図」(部分)。お決まりの画題? タッチは卞相璧とかなり違う感じ。】

 ウィキの金弘道の説明文中に金得臣(김득신.キム・トゥクシン.1754~1822)の名が出てきました。金弘道・申潤福とともに<朝鮮三大風俗画家>とされるそうです。
その金得臣の「破寂図(파적도)」はオモシロイですね。ネコがヒヨコをくわえて逃げていきます。親鶏は敢然と追っかけます。他のヒヨコたちは気絶しちゃってるようですよ。キセルを持ったオジサンもあたふたしてます。

  
  【金得臣「破寂図」。上掲の韓国サイトに拡大図があります。】

※この「破寂図(파적도)」は澗松美術館(간송미술관)所蔵。この美術館には他にも数多くの優れた美術・工芸品がたくさんあります。金弘道や申潤福の風俗画もあります。ぜひ行ってみたいと思いますが、開館は1年の中で5月と10月に2週間のみ、ということで都合がつきません。
→ 「東亜日報(日本語)」でも紹介されています。
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