ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

諸外国で読まれている日本の絵本 - とくに韓国で!

2010-09-12 22:44:03 | 韓国・朝鮮と日本の間のいろいろ
 9月4日(土)、国際子ども図書館で開かれていた特別展「日本発☆子どもの本、海を渡る」を見に行ってきました。
 きっかけは2日の「毎日新聞」の記事

とくに、次の点に興味をもったからです。
①数多くの日本の絵本が諸外国で訳され、出版されているが、国によってそこの生活習慣等に合わせて絵が描き直される等、変身している。
②日本の児童書が翻訳出版されている56ヵ国中、その数が一番多いのは韓国で2117件。

 国際子ども図書館は知りませんでしたが、上野公園内にあり、行ってみるととても格調高い建物。1906(明治39)年帝国図書館として建てられたもので、東京都選定歴史的建造物とか。今回の特別展は国際子ども図書館となって以降の<開館10周年記念>と銘うたれてます。

    
    【歴史的風格を感じさせる国際子ども図書館の外観。】

 展示開場の3F<本のミュージアム>で実際に展示されている本やその説明を見ると、ずいぶんテマヒマかけた企画であることがうかがわれ、来た甲斐ががあったと思いました。

   
      【3F<本のミュージアム>前のラウンジ。】

 上記①について。
 絵本の<変身>を具体的に見てみると、当然違うのが動物の鳴き声等の擬声語。多田ヒロシ「リンゴがドスーン」は韓国では「사과가 쿵!(サグァガ クン!)」になります。ドスーンとクンではずいぶん響きが違うようですが・・・。
日本の人名は、そのまま用いている例も多くありますが、その国らしい名前に変えている例もかなりあります。筒井頼子「あさえとちいさいいもうと」は韓国では「순이와 어린동생(スニと幼い妹)」という題で、妹の名も영이(ヨンイ)と韓国の名になってます。
 同じ筒井頼子の「はじめてのおつかい」は韓国では「이슬이의 첫심부름(イスリのはじめてのおつかい)」。この本は、先の「毎日」の記事にあるように、アメリカでは「幼児を1人で外出させることが虐待になる」という理由で出版できないとは、オドロキ半分ナットク半分。

      
【「魔女の宅急便(韓国版)のタイトルは「키키의 마녀수업(キキの魔女修行)」だが絵は日本版と同じ。カナダ版は魔女のイメージ通り顔が恐い!】

 個々、興味深い例をあげればキリがありません。展示会は5日で終わりましたが、幸い、非常に詳しい<電子展示会>が国際子ども図書館のウェブサイト内に保存されているので、ぜひご参照ください。とても充実した内容で、これだけでも貴重な資料です。
 ※「展示会図録」は基本的に<電子展示会>をそのまま本にしたものですが、<電子展示会>にない写真も載っています。(株式会社山越で注文販売。1800円)

    
【林明子「おつきさまこんばんは」は韓国で抜群に読まれている絵本。小林輝子再話・赤羽末吉絵「にぎりめしごろごろ」のような昔話絵本も訳されている。】

 上記②について。
 「毎日」の記事にあるように、地域別の翻訳出版件数の順位は次のようになっています。
(1)韓国 2177 (2)台湾 1206 (3)中国 537 (4)米国 501 (5)フランス 486 (6)インドネシア 300 (7)英国 249 (8)ドイツ 233 (9)タイ 198(10)香港 104

 ・・・一見してわかるように、韓国が断然トップ。1980年代にはアメリカ、フランスに次いで3位だったのが、90年代で1位となり、2000年代に入ってさらに飛躍的に増えたそうです。民主化や経済発展、印刷技術の向上、そして欧米に比べて言語の壁が低いことがその理由にあげられています。
 私ヌルボが思うに、生活様式、考え方や習慣等が似通っていることもあるのではないでしょうか。

 韓国の子どもの本については、この頃韓国の絵本を翻訳したり、「植民地朝鮮と児童文化」という(たぶん)類書のない研究書を出している大竹聖美さんが「韓国近代の子どもの本と日韓関係」というコラムを書いています。20世紀初頭から植民地時代を経て現代に至るまでの韓国における日本の児童書の受容について、とても手際よく述べられています。<電子図書館>で見ることができます。
 このコラムで私ヌルボが注目したのはたとえば植民地時代の状況を記した次の部分。

 「この時期(1910~45年)は、上述のとおり、崔南善や方定煥などが朝鮮語で朝鮮の子どもたちのための雑誌や童話集刊行に尽力していたが、実はそれ以上に日本の子どもの本が多く流通し、当時朝鮮に暮らした日本人家庭の子どもたちばかりでなく、朝鮮人家庭の子どもたちにも読まれていた。講談社の『少年倶楽部』や『幼年倶楽部』、小学館の『一年生』から『六年生』までの学年別雑誌、それから「講談社の絵本」など、娯楽性の強いものが人気だった。カラー印刷で挿絵に迫力があるものが、経済的に劣位に置かれた朝鮮の子どもたちにはとても華やかに映った。これだけ豪華な子どもの雑誌は朝鮮にはなかったのである。

 2Fの資料室に行ってみると、児童書や絵本、関連の研究所等が書架にたくさん並んでいました。韓国関係では、日本原作の絵本の韓国語訳は約1000冊ほど(?)。また韓国作家による韓国語の絵本も何百冊かあったようです。

 さて、この展示会ではとくにふれられていなかったようですが、児童書・絵本の国際交流についての1つの課題と思われる点は日本から外国への翻訳に対して、日本に入ってくる外国の本がとても少ないこと。韓国の本についてもまさにあてはまる問題です。
 最近たまたま「出版ニュース」4月号を読んだのですが、舘野さんが「日本と韓国、「文学書」の翻訳刊行状況を比較する」という文を寄稿しています。それによると、2009年に韓国で翻訳出版された日本の文学書は886点であるのに対して、日本で刊行された韓国の文学書はわずか10点(2008年は13点)しかないとのこと。舘野さんは、「まだ紹介される点数が少ないだけに、読者側にすれば、作品の面白さ、ダイナミズムを発見するまでに至っていないのではないか」と考察し「韓国文学の知られざる興味を伝えるキャンペーンを展開しなければならない」と提言しています。
 ※国際交流基金ソウル日本文化センター所長・本田修さんの同趣旨の記事が<KOREANA>というサイトにありました。

 韓国の絵本についても文学書と共通する点があるのでは、と思います。
コメント
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