ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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[韓国の珍味(というか、なんというか・・・・)]ケブルのすべて(その4)

2015-09-14 05:40:39 | 韓国料理・食べ物飲み物関係
 →ケブルのすべて(その1)
 →ケブルのすべて(その2)
 →ケブルのすべて(その3)

⑩寺沢大介「将太の寿司」の韓国編 ケブル鮨をめぐって
 寺沢大介「将太の寿司」は1992年週刊「少年マガジン」で連載が始まった人気漫画で(~1 997年)、続編の「将太の寿司〜全国大会編」(1997~2000年)、続々編「将太の寿司2 World Stage」(2013~15年)と続いています。
 韓国でも1998年から「미스터 초밥왕(ミスター寿司王)」というタイトルで鶴山文化社から刊行され、料理漫画の先駆的作品として注目され、250万部以上売れて、漫画界のみならず大きな影響を及ぼしてきました。とくにあの「チャングムの誓い」は原作者が料理勝負の着想等を本作からを得たとのことです。

 この「将太の寿司」に「韓国編」があります。2000年「全国大会編」完結後、少し間を置いて「週刊少年マガジン」に掲載された読切作品で、KCコミックスと講談社漫画文庫の全国大会編最終巻(各17巻と8巻)に併載されています。
 私ヌルボ、文庫版で読んでみました。
     
 お、表紙カバーを外すと、内表紙には中央に大きく「ケブル」と書かれているではありませんか! 「ブ」の字が半分隠れちゃってますが・・・。
 将太が韓国に行くことになったイキサツは、将太の長年の宿敵(妨害者か?)だった笹木剛志が、業績悪化の打開を図って韓国へ進出したものの結果が思わしくなく、将太に助けを求めてきたのに応じたというもの。
 技量は決して悪くはないその店の職人たちに将太が提案したのは、何か店独自の、できれば韓国らしいネタの寿司を創作すること。
 職人たちの中でも意欲的な若者テジ(泰志←韓国人ぽくないゾ)がまず考案したのは白髪ネギキムチの納豆巻き生臭さのないサバの寿司。それから高麗人参の寿司。チョジャン(酢醤)に漬け込んでおいた高麗人参を強めの出汁に砂糖を多めに入れて煮るとエグ味や苦みが消えるとのことです。しかし「これだけじゃ足りないよ!!」と将太。「あとひとつ・・・・何かが足りない気がするんだ」・・・とボンヤリした言葉に、テジが怒ったり同様したりするのは当然。
 しかし、突然テジの頭にひらめいたのは・・・というのが左下のコマ。
     
 それは昔テジがおばあさんに食べさせてもらった本当においしい刺身>。テジはそれを求めて将太たちとともに故郷・釜山のチャガルチ市場まで行きます。
 (※前回書いたように、釜山に行かなくても鷺梁津(ノリャンジン)水産市場に行けばあるんですけどね。)
 そして、<それ>で作った寿司を出したところ、最初に注目した客の1人がまず挑戦。



 左のコマに続いて・・・・


 「箸がきかねえ!! 何てえ滑らかさなんだあ・・・・!?」

 「フオオッ」  (連れの女性)「キャッ」

 「これッ この赤い寿司まだあるのか!?」  (店員)「ハ・・・ハイ!!」

 「皿に山盛り持って来い!! あるだけ全部だ!!」


 続いて笹木が食べてみます。(画像右)

 この手の漫画の<お約束>で、なかなか豊かな表現力です。

 関係ないけど、すぐ前の客と顔つきが実によく似ています。(笑)

 「いったいこれは・・・・これは何なんだ 関口!?」

 ・・・と訊く笹木の思いはこの漫画の読者も同じ。


 そこでページをめくると・・・・




 いやあ、当然とはいえコマ割りの妙ですねー、ハハハ。












 驚く人たちの前で、将太がケブルについて説明します。




 「ケブルは韓国の南西部・・・・全羅道の海岸で獲れます」
 (※忠清南道や慶尚南道の海岸でも獲れます。)









 そして皆の前でケブルを調理してみせます。下の画像。 (コマの流れは右→左。)
    

 ・・・と、このようなわけで以後お店は繁盛、めでたしめでたし。

 ところで、この「将太の寿司 韓国編」のネタを作者・寺沢大介氏はいかにして仕入れたか?・・・ということですが、寺沢氏は韓国版の出版元・鶴山文化社の招きで韓国に行っているんですね。正確にはわかりませんが1998~2000年の間です。
 その時に、彼は当時新羅ホテル和食レストランの責任シェフだった安孝珠(アン・ヒョジュ)さんと会っています。→コチラや→コチラの記事(ともに韓国語)によると、その際寺沢氏は「日本にはなく韓国にだけある寿司を作ってくれ」と頼み、安孝珠さんはそれに応えて1週間の研究後水蔘(수삼.生の高麗人参)の寿司を出したとのことです。
 安孝珠さんはその後2003年に18年間働いていた新羅ホテルを辞め、寿司孝(스시효.スシヒョ)を開店。<韓国のミスター寿司王>として知られるようになります。
 ※「指先で世の中と疎通する:韓国の寿司王安孝珠(손끝으로 세상과 소통하다:한국의 미스터 초밥왕 안효주)」という著書もあります。(→コチラ参照。)
  ところで<ナムウィキ>の「ケブル」の説明文中には、「作家の言葉によるとケブル寿司は新羅ホテルに行った途中実際に食べてみたという」とありますが、それが安孝珠さんが握って出したものかは不明。また続けて「以後ケブル寿司を作ってくれという客たちの要求に多くの料理師たちが脂汗を流さざるを得なかった」とも。つまり当時ケブル寿司は全然一般的なものではなかったようです。(そして、当時ほどではないにしろ今でも・・・。)
 寺沢大介氏は、2007年2月来日した「食客」で有名な韓国の代表的な漫画家の1人ホ・ヨンマン氏との会見の場でもこのケブルのことを語っています。(→<イノライフ>の記事。)
 「韓国で美味しく食べた寿司の上に乗っていた“ケブル”(ユムシ)の正体を知るために、釜山まで夜行列車に乗って行った。実際に見たら何か虫のようなもので、SF映画にでも出てくるような形だった」。
 「韓国編」の中で、チャガルチ市場で云々は寺沢氏自身の体験だったのですね。
 以上から考えると、この「韓国編」の発表は「将太の寿司」の韓国版のヒットに呼応したものなのでしょう。韓国の読者たちにも好意的に受けとめられたようです。ただ、日本での反応はやはり拒絶反応の方が圧倒的。ヌルボの周りの韓国オタク10人くらいに訊いてみると、食べたことがあるのは好奇心旺盛で「何でも知ってる」S谷氏だけでした。

 以上で<その1>以降長々と書いてきたケブルの記事は終わりますが、私ヌルボが気づいたのは、その味について「まずい」「キモチ悪い」等の否定的評価が全然ないこと。これまで調べたり書いたりしてるうちに抵抗感がなくなってきたので、今度韓国に行った時にはぜひ食べてみようと思います。

★追記その1。
 <ナムウィキ>の説明文に、「海岸周辺の刺身店に行けばセコシ(세꼬시)として出す場合が多い」とも記されています。日本語の背越し(せごし.フナ・アユ等を頭・ヒレ・ハラワタを取って中骨のあるままぶつ切りにすること)という言葉がそのまま韓国でも用いられているのですね。その他、韓国のお寿司屋さん関係もいろいろおもしそうですが、日本の寿司についてもよく知らないからなー。(資金面での制約が・・・。とほほ。)

★追記その2。
 「큰개불알풀」オオイヌノフグリ。これは日本語と同じ。和名を直訳した? 一方、개불알꽃アツモリソウのことです。

★追記その3。
 朴宗海(박종해.パク・ジョンヘ)詩人(1942~)の詩集「ケブル(개불)」より
     좌우명                 座右銘
  무엇이든 먹으면 물이 되어 나오니        何であれ食べると水になって出てくるので
  배속을 한 번 뒤집어 보고 싶다         腹の中を一度ひっくり返してみたい

  더러운 것들 훌훌 털어내고           汚いものをパラパラ振り落として  
  햇볕에 말렸다가               日光で乾かすと 
  다시 뒤집어 놓을 수는 없을까          もう一度ひっくり返すことはできないか

  어시장 목판                魚市場の木箱の
  다랑이 안에 담긴 개불을 본다.          棚の中に入れられたケブルを見る。
  창자도 뼈도 없는              腸も骨もない
  이 세상에서 제일 단순한 놈을 본다.        この世の中で一番単純な奴を見る。

  나도 개불처럼                私もケブルのように
  단순화 되어 가고 있는지도 모른다.         単純化されてきているのかもしれない。

  그렇지. 간단하게 살자             そう。簡単に生きよう。
  복잡한 것은 싫다.              複雑なことは嫌だ。


★追記その4。
 この記事の翌年に書いた関連記事です。
 → 韓国生まれの大人気学習漫画<サバイバルシリーズ> ジオたちが干潟であのケブル(ユムシ)と遭遇!

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3 コメント

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ケブル経験あります。 ()
2015-09-23 23:51:03
ケブル編、楽しく読んでいます。

実は私、ケブルを食べたことあります。もうだいぶ前のことですが、チャガルチでも鷺梁津でもなく、ソウル・大学路のフェチプでした。『将太の寿司』の韓国編はその前に読んだことがありましたから、2000年代の半ばごろだったと思います。

もともと特に見た目での抵抗はなく、コリコリした触感で味も濃くて、個人的には気に入りました。その後、なかなか食べる機会がないのが残念です。
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やっぱり (ヌルボ)
2015-09-24 16:26:10
「やっぱり」その1は、ソウル市内でもわざわざ鷺梁津に行かなくてもありますよねー、ということ。

「やっぱり」その2は、「個人的には気に入りました」との評価。実際食べた方の感想で「2度と食わないゾ」というものはないですね。

「やっぱり」その3は、青さんがすでに10年ばかり前に食べたということ。最近のブログ記事を拝見しても韓国や国内のいろんな所に行き、その目的もサッカーとかKARAの公演とか墓地とかグルメとかとても多彩で、いろいろ楽しみながら新しい情報を仕入れていらっしゃいますね。4月のソウル旅行以後神奈川&東京の外に出ていない私としてはうらやましいかぎりです。
返信する
noozomlove3@gmail.com (123วีไอพี)
2023-06-02 12:26:58
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