ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

韓国語の母音の長短とハングル表記の問題 ★オードリー・ヘプバーン、ジョージ・バーナード・ショーは?

2014-06-25 18:47:13 | 韓国語あれこれ
 6月16日の記事<駅の掲示板のハングル表示の問題>(→コチラ)で「上大岡」という駅名のハングル表示についてふれたところ、とくにハングルにおける長母音の表記や発音の問題についていくつかの興味深いコメントをいただきました。

 昨日は、映画にも韓国語にも(&その他もろもろ)造詣が深いconfuocoさんが映画「ローマの休日」の韓国語ポスターについて教えて下さいました。(→confuocoさんのブログの関係記事)

(<DAUM映画>より)


 上左の黄色い字で書かれている名前に注目!です。
 오-드리-・헾버-ㄴ(オードゥリー・ヘプボーン)
 그레고리-・팩(グレゴリー・ペク)
 윌리암・와일러-(ウィリアム・ワイラー)
 
 長母音もしっかり表記しています。短母音だと「」(ボン)となるところを「버-ㄴ」(ボーン)と分割して、「ㄴ」(n)を単独で表記している点などは現在ではまず見られないでしょう。(本か何かで見た記憶はありますが・・・。)

 「ローマの休日」(米.1953)の日本公開は1954年。韓国でも1955年に公開されたそうです。つまり、その時点ではこのような長母音の表記が一般的に行われていたのですね。

 母音の長短はこのような外来語だけでなく韓国語にも本来的にはありました。固有語・漢字語を問わずです。
 固有語の例でよくテキストにあげられているのは(ヌン)や(マル)です。
 前者は「ヌン」=目、「ヌーン」=雪、後者は「マル」=馬、「マール」=言葉 と、母音の長短により意味が違ってきます。

 辞書を見ると、漢字の発音にも長短の別が示されています。
 たとえば、私ヌルボが以前から気になっていた漢字語に「대장」(テジャン)があります。
 ところが、この表記に相当する熟語は「大将」「隊長」「大腸」「台帳」といろいろいあります。
 ちなみに「소장」(ソジャン)にも「少将」「所長」「所蔵」「小腸」といろいろあるので、過去記事の<これは楽しい(?)韓国語クイズ② [同音異義の漢字語編]>(→コチラ)でちょっとふざけて(?)出題した「소장은 대장이 좋지 않다고 말했다.」などという文は、実に多様な解釈が可能になってしまいます。
 で、この2つの漢字音の長短についても、次のように辞書では区別されています。
・・・・[短]隊・台
      [長]大・代・対
・・・・[短]長・場・腸
      [長]将・醤
 まあ、この「대장」も漢字で書いてくれていれば問題なしなんですけどねー。また、もし母音の長短が明確に区別されて発音され、その通り表記されていれば少しは誤解は減るというものですが、今の韓国をみるとそうはいかないのです。

 最近(6月13日)刊行の野間秀樹「韓国語をいかに学ぶか」(平凡社新書)にこの件について1ページあまりを充てて次のようなことが書かれています。

・標準語では(本来的には)母音の長短で単語の意味を区別する。アナウンサー等はこうした長母音を意識して発音する。

・1950~60年代くらいまで、ソウル言葉の話者たちはこうした母音の長短で単語の意味を区別していた。現在でも高齢者には区別を保持している話者がいる。

・70年代頃になり、若い層は長母音を長く発音しなくなった。現在、辞書には長母音記号の記載ははあり、学校の「国語」の教科書にも長母音の存在が記述されているが、教師自身の発音からして長母音がなくなっていて、目も雪も「ヌン」と短く発音している。
今、膨大な数の長母音の単語をおおむね認識しているのは、一部の韓国語学者くらいのものである。

・このような、長母音が50年やそこらで崩壊する変容は実に驚くべきことである。

・学習にあたっては、長母音がかつて存在したという知識として知るに留め、基本的にすべて短母音で発音してよい。


 ・・・というわけです。
 したがって、昔は「オードゥリー・ヘプボーン」と発音していた韓国人も、今は「オドゥリ・ヘプボン」になっているとみてよさそう。昨年~今年の韓国映画の大ヒット作「怪しい彼女」では主人公の女性が「オードゥリー」と名乗ったりしています。7月11日日本公開ということなので、そのあたりも聞いて確認してみます。(作品自体も大期待作ですが・・・。)

 長母音がいくつも入る外国人の名前は、と考えてなんとなく思いついたのがタイトルに書いた「ジョージ・バーナード・ショー」でした。確認してみると、ハングル表記は「조지 버나드 쇼」と、韓国語学習者にはとくに驚くこともない綴りでした。カタカナ書きすると「ジョジ・ボナトゥ・ショ」。
 人名以外では「マハーバーラタ」とか「サーターアンダーギー」なんてのが気になるところ。確かめてみたら前者はやはり「마하바라타」(マハバラタ)。後者は未確認ですが、おそらく「サタアンダギ」なんだろーうなー。

 なお、「한국」(韓国)の「한」(ハン)も本来的には長母音なので、「ハングク」ではなく「ハーングク」が正しい!・・・って、皆さんご存知でしたか?


【野間先生、4月の「日本語とハングル」(文春新書)に続いて刊行。精力的に仕事をされています。】

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 韓国内の映画 Daumの人気順... | トップ | 韓国軍兵士銃乱射事件の報道... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ローマ (前川健一)
2014-06-26 00:34:57
 日本で「ローマの休日」としている映画は、誤訳なんですね。原題はRoman Holiday"であって、”Holiday in Rome"ではないのです。この違いは、辞書で簡単にわかります。この誤訳を、韓国でも借用したようですね。
 ローマといえば、イ・ヨンエ主演のテレビドラマ「火花」(2000年)の第一話はタイが舞台ですが、イ・ヨンエがアユタヤ見物している場面でガイドが解説しているシーンの字幕は、「アユタヤはローマ軍によって滅ぼされ・・・」となっていて、びっくり。正解はビルマ軍ですので、「ポマ」を「ロマ」と聞き違えた翻訳者が、世界史を知らないこともあって、ローマ軍の大遠征物語にしてしまったようです。この字幕は、Gyao放送のものです。
返信する
おおっ、さっそく! (confuoco)
2014-06-27 22:12:27
こんばんは。
confuocoを持ち上げ過ぎなのではないでしょうか...(^-^*)ゞ
韓国語を勉強したのは約10か月に過ぎないので
知らないこともまだまだ多く、
ヌルボさんの足元にも到底及ばないと思います...

ローマの休日については
ポスターを見た10年前は驚きました...(それでブログに書きとめておりました)
日本語と近い感じもしてうれしかったです。

最近一番驚いたのは
先月のキム(・カーダシアン)とカニエ(・ウエスト)結婚式の際
欧米メディアがふたりの名前を合わせて
Kimye(=キム+カニエ)と書いていたこと。
K-POP文化的発想!?の英語表現にたいへん驚きました。
http://plaza.rakuten.co.jp/confuoco/diary/201406090000/

さて、
体育会系なので
サッカーやテニス観戦もしているこの頃ですが、
国名のハングル表記など、あらためて難しいですね...

ワールドカップは最新テクノロジーや流行等もGeek的に興味深いので
国名のハングル表記とあわせて
また、ブラジルについてなども加味して
近く雑記を書くかもしれません。

それでは
今後ともよろしくお願いいたします。
返信する
映画のタイトルの翻訳 (ヌルボ)
2014-06-28 11:54:04
前川健一様

「ローマの休日」の原題については考えたことがありませんでした。なるほど、ですね。

以前どこかで「北北西に進路を取れ」の原題について、「「ノースウェスト機で北へ」と訳すのが正しいんじゃないか?」と英語の先生が言っていた、と書いた記憶があります。(この件についても、ネット上でいくつかQ&Aがあります。)

「ゴッドファーザー」は韓国では「代父(テブ)」としていますが、これは忠実な訳でしょうね。韓国人は聞いてすぐ意味がわかるか疑問ですが・・・。
邦題の方は「名付け親」ではスケール感といったものがないので原題の音訳にしたということでしょうか?

きちんと探してはいませんが、明らかな誤訳例や、意図的な「誤訳」等もいろいろありそうですね。

「ローマの休日」という邦題は、内容的にもむしろ自然だとは思います。
返信する
国名のハングル表記 (ヌルボ)
2014-06-28 12:31:52
confuoco様

韓国語での各国の国名は、日本人が聴いてすぐわかるものもたくさんありますが、わからないのも多いですね。
前川さんも「ポマ」について書かれていますが、その他「トキ(トルコ)」とか「チルレ(チリ)」とか、あ、「トギル(独逸)」「ホジュ(豪州)」等々の漢字語も。
「ウォルナム(ベトナム.越南)」は、越北の反対語の越南と文脈の判断するしかないですね。(「ベトナム北部から越南した」なんて文が思い浮かびました(笑)。)
返信する

コメントを投稿

韓国語あれこれ」カテゴリの最新記事