ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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高校生にすすめる本360冊(1998年版&増補) [7]

2013-09-19 17:55:28 | 高校生にすすめる本360冊

 今回は、社会問題や戦争等をテーマにしたノンフィクションの前半。

 最近ではこの分野の注目作に何があるかな、と首をひねってもすぐに出てきません。私ヌルボの情報感度が鈍ったのかな? 大地震&原発事故関係でありそうですが、あまり読んでないしなー・・・。

☆印はとくに推奨。×印は品切れまたは絶版中の本(多すぎる!) △は絶版・品切れでも単行本なら出ている本。

129
徳冨蘆花謀叛論岩波文庫129=大逆事件に際し、「謀叛を恐れてはならぬ。・・・・新しいものはつねに謀叛である」と毅然として説いた姿勢に感銘。
130=1919年植民地朝鮮で起こった三一独立運動について日本人は皆知るべきである。その上でこの本の中の「朝鮮の友人に」という痛切な思いに満ちた文をぜひ読んでほしい。三一独立運動関連の小説には梶山季之「李朝残影」(角川)がある。同書所収の「族譜」は創氏改名が題材で、韓国で映画にもなった。機会があれば観てみて。
132=衝撃的なルポ。アウシュビッツは知っていても、日本軍の罪悪を知らない日本人が多すぎる。<お薦め>ではなく<読むべき>本。
133=戦前<からゆきさん>といわれ東南アジアに渡った多くの娼婦がいた。その感動的な聞き書き。今は逆に<ジャパゆきさん>が大勢いることを知ってほしい。
134・135=現代(の少し前)の労働の実態と意味を現場から考える。一口に<仕事>とか<会社員>といつても内実はさまざま。134は自動車工場の季節工に志願した著者自身のすさまじい労働体験。135は各産業の最前線で奮闘する人々の物語。いわば「プロジェクトX」の先駆的ノンフィクション。勝者の背後には、その何倍もの死屍累々たる敗者の群れがいることも事実だけどね。
136=欠陥車であることをメーカー側は知っていても、事故の原因は運転者の不注意にされるとは・・・・。企業+行政+司法+マスコミという圧倒的な力に敢然と闘う人もいる。
137=<現代>を考える青年が少ない現在、この書のヒューマンな問題提起を受けとめてほしい。
138=ヒロシマは過去だけの問題ではない。この著者の小説には難渋するが、これは明解で読みごたえがある。
139=まだまだ知られていない、or誤解の多い隣国を知るために。題名からは想像のつかない感動的なノンフィクション。
140=韓国は近くても異国。共通点が多いだけに誤解にも気付きにくい。韓国のお客様に割り箸を出したり、手作りのプレゼントを贈ったりするとイヤな顔をされるかも。
141=祖母の国韓国に語学留学した作家が韓国と日本と在日等の問題を考える。ケナリは韓国に多いレンギョウのこと。
142=日本は決して単一民族国家ではない。権力によって切り棄てられてきた“辺境”からの問題提起は鋭い。
143=「ジョン・ウェインはなぜ死んだか」(文春)、「危険な話」(新潮)等、彼の本はどれも刺激的・衝撃的。この本もわれわれがマスコミの情報操作にいかに弱いかを痛感させられる。
144~146=戦争の実態もさまざま。144は無謀な作戦で多くの戦死者を出したインパール作戦。この他、ノモンハン、ガダルカナル、アッツ、ルソン、沖縄等々、壮絶・悲惨な戦記は数多くある。兵士自身の体験記を何か2冊は読んで。145、戦艦武蔵の甲板上はさながら地獄図絵だったそうな・・・・。逆に甲板の下から見た戦争が146。戦争を知らずに平和を語るなかれ。
147=戦時下の学童疎開の体験に基づいた作品るこの他にも、柴田道子「谷間の底から」(岩波少年.×品切?)、高井有一「少年たちの戦場」(旺文社.×絶版)、谷真介「かげろうの村」(偕成社)、中根美宝子「疎開学童の日記」(中公新書)等がある。326(石川逸子「千鳥ヶ淵へ行きましたか」)も参照。
148=「“赤紙”が来たら逃げる」などと言ってる人、それがどんなに大変なことか知って下さい。山村基毅「兵役拒否11人の日本人」(晶文社)もさまざまな逃げ方を教えてくれる。
149=ソ連軍の突然の満州侵入。3人の子供を連れた母の必死の逃避行。引き揚げの苦労は小林千登勢「お星さまのレール」や安倍公房「けものたちは故郷をめざす」等、多くの本がある。
130柳宗悦民藝四十年岩波文庫
131日本戦没学生記念会(編)きけ わだつみのこえ岩波文庫

132
本多勝一中国の旅朝日文庫

133
山崎朋子サンダカン八番娼館文春文庫
134鎌田慧自動車絶望工場講談社文庫
×
135
内橋克人匠(たくみ)の時代講談社文庫
136伊藤正孝欠陥車と企業犯罪教養文庫
137日高六郎戦後思想を考える岩波新書
138大江健三郎ヒロシマ・ノート岩波新書

139
関川夏央ソウルの練習問題新潮文庫
140呉善花スカートの風角川文庫
141鷺沢萌ケナリも花、サクラも花新潮文庫
142新谷行アイヌ民族抵抗史三一新書
143広瀬隆東京に原発を集英社文庫
144高木俊朗抗命文春文庫
145渡辺清戦艦武蔵のさいごフォア文庫
×
146
高橋孟海軍めしたき物語新潮文庫
×
147
小林信彦冬の神話角川文庫
148稲垣真美兵役を拒否した日本人岩波新書
149藤原てい流れる星は生きている中公文庫


 今の高校生には「抗命」なんて言葉は当然説明が必要だし、「わだつみ」も同様で、そこに込められた感情も含めて説明すべき言葉ですね。もしかしたら「疎開」も授業で教わらなければわからない歴史用語になっているかもしれません。「引き揚げ」や「抑留」等、私ヌルボが子供の頃ラジオでよく聞いたりしていた用語ももしかしたら「日本史用語集」に載っているかも・・・。

 130、139~141の4冊に韓国オタクらしさがちょっぴり出ています。
 画期的な韓国本「ソウルの練習問題」刊行からちょうど30年経ちました。その後ソウル五輪や民主化~文民政権成立、Wカップ共同開催にヨン様ブーム等々あって、日韓間の人や物や情報の行き来は大きく様変わり。双方の庶民同士が直接相手を非難・罵倒し合える(!)時代になったことは大きな進歩だと思います。決して皮肉ではありません。
 その間、呉善花は日本国籍を取得し、また鷺沢萌は2004年自殺してしまいました。
 世の中も、人の人生も変わっていくのが常ですが、私ヌルボは変わり映えのしない毎日を過ごしています。

 「きけ わだつみのこえ」所収の田辺利宏の詩、とくに「雪の夜」は涙なくして読むことができません。(→参考。)
 この詩については、いずれぜひ書かなければと思っています。

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高校生にすすめる本360冊[7] (ソウル一市民)
2013-09-19 19:20:42
 私の読んだことのあるのは8冊です。
 本多勝一は「カナダ=エスキモー」や「ニューギニア高地人」など、思想性の稀薄なものが好きですが、この頃はまだマシでしたね。その後ほとんど怨念に満ちた大江批判本などを出して全く読む気がなくなりました。
 その大江もまた思想的にはかなり偏向していて(特に中国や北朝鮮を絶賛していたものなど)、昔の評論やノンフィクションは余り読む気が起きません。やはり初期の短篇から「万延元年」あたりまでの小説作品が彼の代表作かと。

 「海軍めしたき物語」は面白かったですね~。続編も出ていましたが、やはり最初のものが一番楽しめました。異色の戦記物というべきでしょうか。

 よくも悪くも戦時中のことを知る資料として、作家などの日記は若い人に読んでもらいたいと思います。荷風の断腸亭日乗は敷居が高いとして、山田風太郎や高見順、大佛次郎、最近出た山本周五郎のものなど、そしてなによりも大江の師匠である渡辺一夫の「敗戦日記」。青空文庫で海野十三の「敗戦日記」なども手軽に読めますし。
 あるいは手っ取り早くドナルド・キーンの「日本人の戦争―作家の日記を読む」でも良いですけれども。

 韓国モノでは長璋吉などとともに関川夏央を私も愛読した口ですが(「海峡を越えたホームラン」も是非読んで欲しいものです)、他にも田中明氏の「常識的朝鮮論のすすめ」なども当時としては画期的だったように思います。

 しかし「双方の庶民同士が直接相手を非難・罵倒し合える(!)時代になったことは大きな進歩だと思います」というのはどうでしょうか。むしろ昔以上に、一部の情報だけを自分勝手に解釈して「相手」を決め付け、不満解消のためなのか一方的に誹謗中傷して自足するという、自省などの入り込む余地のないような偏狭な先入観や差別意識が強まっただけのような気がしていますが…。
 自分の目や足で相手(国)をよく知った上での喧嘩なら相互理解のためにも役立つかも知れませんが、果して今の嫌韓や反日(あるいはその対極にある盲目的な韓流など)は「自己満足」以外のどこにも行き着く場所がないように思えてならないのですが…。
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「大きな進歩」という理由 (ヌルボ)
2013-09-19 21:44:21
偏狭な先入観や差別意識の持ち主がたくさんいることはもちろん承知の上です。昔はもっとたくさんいたかもしれません。今「一部の情報だけを自分勝手に解釈」しているそういう人たちは、昔は国やマスメディアから一方的に流される非常に少ない情報だけで判断していました。良識ある市民も情報源は同じでした。

今は少なくともちゃんとしたメディアリテラシーの能力があれば名もなき市民もいろんな情報に接したり行動したりして考え、判断できるし、自ら発信もできるようになりました。

「嫌韓」的な人や反日」的な人々の中にも韓国についてのさまざまな知見を持った人は多いし、盲目的ではない韓流オバサンもたくさんいます。

民間レベルの交流の発展がそのまま両国関係を好転させると考えるほどノーテンキではありませんが、1980年頃までのことを思えばずいぶん「風通しがよくなった」ということです。
「悪性の風が吹いているからよくない」というのは、その次の問題たと思います。
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大きな進歩? (ソウル一市民)
2013-09-19 22:54:20
 今の状況を全否定する訳ではむろんありません。
 様々な情報に接しやすくなったことも確かですし(ただ、「昔」は一方的に国やメディアから流される情報だけで判断していた、という部分はかなり疑問ですが)、そうした情報をうまく取捨選択して冷静かつ公正に事象を把握していくこともしやすくなっているとは思います。実際そうしたことをしている人がいることも否定している訳ではありません。
 しかし個人的な印象では(従って誤解かも知れませんが)、多くの情報を前にした後の手続きが、どうも拙速かつ感情的に流れやすい傾向が、以前にもまして見られるような気がしてなりません。とりわけそれなりの知的バックグラウンドを持った人たちが(マス・メディアだけでなく、一般の人においても)、いささか安直に結論を下して自足している姿を、ここ数年(特に昨年あたりから)私の周囲でもしばしば見かけるようになりました(年代も若い世代だけではなく、より幅広い世代において)。
 やはり日本もよほど精神的に余裕がなくなってきているのかと思ったりもしますが、あるいはより広く「情報化」がもたらしている側面もあるかも知れません。
 いずれにせよ、今の日韓・韓日、あるいは日中・中日の軋轢ひとつ見ていても、「昔」より良くなったという実感はなく、少しも楽観できないというのが正直な感想です。
 所詮、個人的な印象・感想ですけれども。
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「何」に注目するかで異なる評価 (ヌルボ)
2013-09-19 23:55:30
現在の状態が「少しも楽観できない」という点はその通りです。

しかし、そのように日韓両国間の軋轢の有無に注目すれば、「今よりも朴正煕政権(&自民党長期政権)当時がよかった」ということになります。

私はとくに韓国社会の90年代以降の大変化を、あるいは日韓両国の情報インフラの発展を、数多くの新たな問題を生み出しながらも、「市民に開かれた社会」への歩みとして肯定的に捉えたいと思っています。
かつては「双方の庶民同士が直接相手を非難・罵倒し合うこと「さえ」できなかった」のです。

ここらへんは推薦本からもうかがわれると思いますが、(昔の?)「反国家権力」の名残りかもしれません。
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直接的な非難・罵倒 (ソウル一市民)
2013-09-20 01:52:52
 確かにいつの時代と比較するかによっても現状がどうなのかの評価は分れますね。「朴正煕政権(&自民党長期政権)」当時が今より「悪かった」のかどうかについても、日韓国交正常化なども含めて綜合的に考えると一概に何とも言えませんけれども。
 朴正煕政権の功罪についてはとりわけ娘が大統領となった今、韓国内においても賛否両論かまびすしいですが、ありきたりな正論(同語反復)になってしまいますが、韓国経済への貢献など評価すべき点は評価し、軍事独裁による言論統制など批判すべき点は批判すべきだと思いますけれども(この点、反「国家権力」といった硬直的な思考についても懐疑的です)。

 「双方の庶民同士が直接相手を非難・罵倒し合う」ような状況は、今も訪れていないという気がしています。むしろそうした可能性は、インターネットなどで匿名で相手を批判・罵倒して自足するような状況が急激に進んでしまい、ますます遠ざかってしまったようにも思っています。

 ともあれ、私はヌルボさんよりも現状に対してかなり悲観的だということになりますね。
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