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[韓国語の新語] 「三抛世代(サンポセデ)」の抱える悩みは日本の若年層と共通

2012-11-21 23:57:02 | 韓国語あれこれ
 1つ前の記事で韓国映画情報を探索中、オムニバス映画「家族シネマ(가족시네마)」についての記事(→コチラ)に「대한민국 '삼포세대'의 불편한 진실 확인<가족시네마>(大韓民国'サンポ世代'の不都合な真実確認<家族シネマ>)」という見出しがついていました。この映画について記された他の記事にも、この「삼포 세대」という言葉は多く用いられていました。
 意味は、記事本文にあるように恋愛、結婚、出産の3つをあきらめた世代(연애, 결혼, 출산 세 가지를 포기한 세대를)」のことです。
 「포기」は漢字では「抛棄」です。(「放棄」だと「방기」なので要注意。)
 要するに「三抛世代」なのですが、この漢字を見ても日本人は意味不明ですね。

 この言葉は初めて見たので、どれくらい一般的か探ってみたら、韓国ウィキ(→コチラ)にすでに載っていました。
 その説明によると、2011年5月の「京郷新聞」の企画シリーズ<福祉国家を語る>の記事(→コチラ)中の新造語とのことですが、その記事を読むと、その時点で存在していた言葉のようです。

 このような「三抛世代」を生んだ背景として、現代の韓国の青年を取り巻く経済的社会的状況が指摘されています。
 就職難や、物価・授業料・住宅価格などの高騰等で生活に余裕がなく、恋愛と結婚をあきらめたり、出産を先送りしているというわけで、このような三抛世代の出現によって伝統的な家族形成の公式の瓦解が進行しているそうです。
※「家族シネマ」の中の「E.D.571」という作品は、学生時代授業料のために卵子を売ったことのある39歳のゴールドミス(独身貴族的な働く女性)の前に、ある日娘だと名乗る少女が訪ねてきて心理的葛藤に陥る物語です。

 上記「京郷新聞」の記事では、背景の説明として2010年の韓国全体の失業率が3.7%であるのに対して、青年層(15~29歳)の失業率が8.0%に上るという数字をあげています。日本では2011年の15~24歳の年齢層の失業率は8.2%、全世代では4.6%で、よく似た傾向を示しています。。
 しかし、今年9月の「東亜日報」の記事(日本語訳は→コチラ)によると、2011年の韓国の15~24歳の雇用率は23.1%で、スペイン(24.1%)やポルトガル(27.1%)よりも低く、深刻な水準とのことです。そして先の8.0%という失業率の数値には、学院(ハグォン.塾)に通いながら就職をめざしているる就職準備生や、公務員試験をめざす長期浪人生、アルバイトで生計をつなぐニート等は含まれていないので、実際の失業率はもっと高いのだとか・・・。

 一方、最初に引用した「家族シネマ」についての記事の見ると、結婚に要する費用がイラストで描かれています。
 新婚の家をソウルで伝貰で購入するには1億4921万ウォン、結婚式費用が1722万ウォン、結婚のための品や礼物、新婚旅行等の費用4867万ウォンとのこと。これでは親の支援がないと無理ですね。もちろん得られればの話ですが。

 結婚しても、出産や育児をめぐる問題も山積で、とくに働く女性にとっては問題は深刻です。
 「家族シネマ」中の「イン・グッド・カンパニー」という作品は、出産の問題で不当解雇の危機に瀕した女性職員の話。利己的な職場の同僚たち(←「身に覚えがある」ということか)がたがいに顔色をうかがい始める・・・、ということのようです。
 また「星形のしみ」という作品では、過去幼稚園キャンプ火災事故で娘を亡くしたことに自責の念を抱いている女性の前に、1年後死んだはずの娘が現れる(!?)という話で、いずれもそんな女性の労働環境をめぐる問題が描かれています。
 この映画の英語題が「Modern Family」とは・・・。

 出生率について、→コチラのデータを見ると、2011年の数値では韓国1.24、日本1.39と、世界最下位を争っています。
 韓国はまた、日本以上の高齢社会にもなっています。

 こうしてみると、日韓両国の、とくに若年層の直面している問題状況は共通点が非常に多いことがわかります。
 だったらどうすればいいのか? ・・・という難問にきっちり方向性を打ち出してくれる政治が期待できればいいのですが、これも現実はまったく逆のようで、暗澹とした気持ちにならざるをえません。

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2 コメント

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韓国語に残る昔の日本語 (yohnishi)
2012-11-25 08:48:55
 「ほうき」は元々日本語でも「抛棄」だったのが、戦後当用漢字から「抛」が外されたので、「放棄」になってしまったのですね。

 日本語では当用漢字からなくなったため、置き換え、言い換えられたけれども、韓国語では昔の日本語そのまま残っているという漢字語が結構たくさんあります。
「障碍」→「障害」、「瀆職」→「汚職」等々。

 「瀆職」のように音も変わってしまえばわかりやすいのですが、「抛棄」「障碍」のように、日本語で音が同じ漢字に置き換えられたけれども、韓国語では置き換えられた漢字の音が違う、というケースは要注意です。

 また「鹵獲」のように、戦前の日本では使われていたが、当用漢字化で戦後の日本では使われなくなったけれども、韓国ではそのまま使われている、という言葉もありますね。
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Unknown (ヌルボ)
2012-11-25 20:35:22
あいかわらずハングルや旧漢字が文字化けしてしまいますね。
左のブックマーク中の「かじりたてのハングル  ユニコード関連ツール」を使うと読むことができます。

漢字検定では準1級~1級あたりで出題されますね。ハングル検定でもありそうです。

置き換えの結果韓国語で発音が違ってくる例では乱用(濫用)とか関数(函数)が思い浮かびましたが、何かまとまったサイトがあるだろうと思って探したら、ウィキに「同音の漢字による書きかえ」という項目がありました。→

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E9%9F%B3%E3%81%AE%E6%BC%A2%E5%AD%97%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E6%9B%B8%E3%81%8D%E3%81%8B%E3%81%88

これを見るとすごくたくさんあって、私の知らなかったものも当然数え切れないほどあるので、いずれじっくり目を通してみようと思います。
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