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「白丁(ペクチョン)」という言葉に抵抗感がない韓国・北朝鮮に驚く ②北朝鮮が30年以上公的に使ってきた「人間白丁」という罵倒語

2018-08-13 20:09:05 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 →1つ前の記事の続きです。

 北朝鮮が国際外交の場面で用いている非難の言辞の激しさはあいかわらずです。
 トランプ大統領に対して、(オットー・ワームビア青年の死に関して)「老いぼれの精神異常者とそのろくでなし仲間が捏造した虚偽情報で最高指導者の神聖なる尊厳を傷つけた」とか、「老いぼれならず者のトランプが三寸の舌で『弁舌』を振るいながらまたもやたわごとを並べ立てて米国の内部と国際社会を騒然とさせている」等々。
 これに対してトランプもほぼ同じようなレベルでやりあっていたから、まるで子供同士の口喧嘩のようなみっともなさでした。
 北朝鮮による罵倒語の中で、私ヌルボが本気でこれは許せないと思ったのは、脱北者たちをかなり以前から「인간쓰레기(インガンスレギ.人間ゴミ)と呼んでいること。一体誰がそんな「人間ゴミ」を生み出しているというのか? 実に無責任極まりない言葉です。
 
 そんな北朝鮮の、それも公的に流される口汚い罵倒語も毎度毎度のことなので、ちょっと鈍感になってきたかな?という私ヌルボでしたが、一昨年(2016年)の4月、北朝鮮の公式サイト<우리 민족끼리(ウリミンジョッキリ.わが民族同士)>の4月30日の記事(→コチラ)の見出しを見た時には驚きました。

  인간백정의 무리에게는 참혹한 징벌만이 명처방이다
  (人間白丁の群れには残酷な懲罰だけが名処方だ)


 今も問題が再燃している中国・寧波の北朝鮮レストラン従業員の脱北を「韓国による拉致である」として非難する記事ですが、それにしても<人間白丁(インガンペクチョン)>とはなんと強烈な言葉か!
 同じく同年10月5日にも인간백정, 살인마들을 고발하는 농민사망사건(人間白丁、殺人魔たちを告発する農民死亡事故)」という見出しで2015年11月のデモに参加し、警察の放水銃に倒れて重体に陥って16年9月に死亡したペク・ナムギさんについての記事がありました。

 調べてみると、<人間白丁>とは(最初ヌルボが誤解したような)「人間である白丁」という意味ではなく、「人間を家畜のように殺す白丁」といった意味なのだそうです。
 そして、とくに最近の北朝鮮特有の言葉ではなく、かつては朴正熙や全斗煥に対しても使われました。またアララ!と思ったのは北朝鮮に限らず韓国の側でも用いられているということです。
 たとえば保守系の言論人・趙甲濟(チョ・カプチェ)氏も2011年12月金正日国防委員会委員長の死去後인간백정을 애도하는 북한주민의 속내(人間白丁を哀悼する北韓住民の胸の内)」と題した記事(→コチラ)と、金正日を<人間白丁>とした記事を公表しています。
 最近では、今年5月脱北者団体が風船にビラを付けて北朝鮮に飛ばそうとして市民団体と警察に制止されたということがありましたが(→コチラ参照) そのビラには「형님을 살해한 악마, 인간백정 김정은(兄を殺害した悪魔、人間白丁金正恩)」などと記されていたとのことです。
 それ以外にも、韓国の記事を探すとスターリン、ヒトラー、毛沢東、そして金日成等が<人間白丁>のレッテルを貼られている例が見つかりました。

 ヨクソル(욕설.辱説)すなわち悪口(罵倒語・侮蔑語)の多様で豊富なことは韓国人の誇るところ(笑)で、本ブログでも映画「息もできない」に出てくるスラング(ほとんど侮蔑語)についての記事(→コチラ)を書いたことがありました。
 また、韓国語関係のいろんな本にも記されています。たとえば辛淑玉「愛と憎しみの韓国語」(文春新書)もその1つで、彼女自身が子供の頃から聞いていた(使っていた??)悪口をたくさん載せています。その中で、少しためらいがちに紹介していた「過激な」悪口が1つ前の記事で書いた「ミッチンノム」でした。「狂ったヤツ」という意味で、ごくふつうに軽く使われている言葉ですが、辛淑玉さんは「障碍者差別につながる」ということでためらいがあったのではないでしょうか? そして「白丁」のような身分や職業関係の差別語も載っていないのは意識的に避けたのかどうか?
 ※日本でもかつてはそんな障碍者や身分・職業に関する悪口がいろいろありました。筒井康隆「悪口雑言罵詈讒謗」(「欠陥大百科」(1970)所収)にドカッと書かれています。
 もしかしたら、「人間白丁」という罵倒語もそんな<文化的伝統>のあらわれなのかもしれません。しかし、国際常識を考えると、自身の品格を貶めているという点で相当のマイナス効果になっていると思うのですがねー・・・。また、国際社会ももっと厳しく批判すべきではないでしょうか?

 この「人間白丁」については、私ヌルボがこれまでしばしば参考としてきた<辻本武 tsujimoto blog>に関連記事がいくつもありました。その中で、今年5月の→コチラの記事で、辻本さんは「季刊 三千里 №25」(1981年2月)所載の作家・金石範さんの「差別、雑感」と題した小文の一部を紹介しておられます。
 「季刊 三千里」は何冊か持っていますがこの号はなく、図書館にもないので、恥ずかしながら孫引きになってしまいますが、そのまま載せることにします。

 朝鮮での「被差別部落民」を意味する「白丁(ペックチョン)」ということばの用法について、一言いっておきたい。在日朝鮮人組織の朝鮮語の機関紙『朝鮮新報』などで、いまでも朴正熙や全斗煥らをさしていう場合、「人間白丁」などと大きな見出しで堂々とでてくる。
 白丁は高麗時代に隋から入ってきた言葉で「百姓(ペックソン)」―人民を指していたようだが、しかし長い歴史の過程で「百姓」のどの階層を指し、そしてどのような賤称の響きを持つに至っているか、年輩の朝鮮人なら知っているだろう。
 それは「エタ」「ヒニン」と同じような響きを持って人の胸を突き刺す。白丁は死語ではない。その人たちの存在とともに、言葉は生きている。私は先に「チョーセン!」が朝鮮人以外に蔑称として向けられている事実について触れたが、「白丁」を人殺しや人でなしなどの代名詞として、印刷物などで公公然と使用するのはやめるべきだと思う。
 たとえば「人間白丁全斗煥」となった場合、「白丁」という言葉が放つその否定的な毒はどちらに強く突き刺さるか。それは全斗煥よりも「白丁」に属する者たちに強く向かっていく。「白丁」に属する者が、その形容をどのような思いで聞くか。「白丁」がそのような形容詞として使われることがないように切に望みたい。自ら被抑圧解放の立場においている者の場合はなおさらだろう。


 この金石範さんの文に続けて、辻本さんは次のように記しています。

 「白丁」という言葉は、それから35年も経った今でも韓国で使われています。テレビドラマや映画にこの言葉が出てきます。しかし韓国では問題にはなりません。日本で「穢多」と言えば大問題になりますが、ここが韓国との違いですね。

 そして韓国のこのような現状をどう理解するか? 辻本さんが示す3様の解釈をヌルボなりに箇条書きにまとめると・・・
  ①差別が日常化しているので問題とは気付いていない。
  ②差別というものがなくなったから逆に差別語が自由に使われている。
  ③朝鮮戦争で国土が焦土化して白丁自体が消滅したため、この語は単に比喩的表現として残っているだけ。

 ・・・となります。
 この中のどれが正しいかについては、「(上記のような)いろんな説明があるようです。本格的には議論されていないようですね」と書くにとどめています。私ヌルボもよくわかりません。①~③のすべての要素が混在しているようにも思えます。

 この辻本さんの記事に寄せられたA.OTAさんという方のコメントには次のように書かれています。

 ただでさえ結束力の弱い地域共同体はその後の日本支配と朝鮮戦争のさらなる破壊によって現在は影も形もありません。そういう歴史の中では「白丁」という地域社会の中でのアンタッチャブルが人の心に実体として残される理由はありませんよね。韓国に住み始めて四半世紀を過ぎましたが「白丁」という言葉を人々の辱説、悪罵の中で聞いたことも一度もありません。

 ・・・と、ほぼ③に該当する見解のようです。
 しかし、人(世代等)や地域によってこのような問題についての体験にはかなり差があるのではないでしょうか?(日本の場合とくに痛感。) 上記のように少なくとも書き言葉としては「白丁」は今も用いられてます。
 なお、<ナムウィキ>の「백정」の項目(→コチラ)をみると、韓国プロ野球で、サムソンライオンズの投手として活躍しているペク・チョンヒョン(백정현)投手のニックネームの1つに「最後の1文字を落として・・・」というものがあるとか、ネット内では主に漢方医や薬剤師などが、メスを持って手術する医師に対して使うことがあるといった記述があります。(どれほど一般的なものか、よくわかりませんが・・・。)

 結局私ヌルボ、いろいろ調べて新たにわかったこともありますが実体はつかめず、自分でも隔靴掻痒といった感じの記事になってしまいました。
 ただ、上掲の金石範さんの文章が37年経った今も通用するということが非常に残念です。今一度、とくに<当事者>の人たちはぜひ読んでほしいものです。
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