ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

「週刊文春」掲載の南北朝鮮の比較写真 と 中国政府による脱北者の強制送還問題

2012-02-24 23:44:38 | 北朝鮮のもろもろ

 昨日(2月23日)発売の「週刊文春」3月1日号に、「韓国と北朝鮮、分断国家の肖像」というタイトルで、韓国・北朝鮮各9枚ずつの写真が掲載されていました。たとえば「地下鉄」とか「町を走るバス」、あるいは「海水浴」や「女子生徒」、「赤ちゃん」等の9つのテーマごとに、南北それぞれの似て非なる町や人々のようすを対照させて並べたところがミソです。まさに副題の<38度線を挟んだパラレルワールド>というわけで、見るだけでいろいろなことがわかります。
 撮影は菱田雄介さんで、略歴を見ると、近年さまざまな場面で注目すべき仕事をしている写真家であることがわかります。ご本人のサイトは→コチラ、twitterはコチラです。

 さて私ヌルボ、この写真や、菱田さんのことを本論の導入として軽く扱うつもりはありませんが、これらの写真を見ながら、ぜひこういうテーマでも写真を撮り、載せてほしかった、と思いました。
 それは、仁川空港から外国に観光旅行に出かける韓国の家族たちと、中朝国境の川を命がけで越えようとする北朝鮮の家族の比較対照写真です。

 こんなことをなぜ考えたかというと、たまたまその前日(2月22日)、「毎日新聞」の「韓国:脱北者送還に芸能人ら抗議」という記事を読んでいたからです。記事の主旨は「中国で数十人の脱北者が拘束され強制送還の危機に陥っていると韓国で報道され、21日人権団体や脱北者団体がソウルの中国大使館前で抗議する騒動に発展している」というもので、デモにはお笑い芸人や俳優らも参加し・・・とくに、脱北をテーマにした映画「クロッシング」に主演したチャ・インピョさんは、「腹が減って脱北したことで処刑されるのはおかしい。中国市民に(協力を)訴えるためにここへ来た」と語った」と伝え、その写真も載せています。

 韓国と北朝鮮の町の外貌や人々のようすは、似て非なるところもあれば大いに違うところもあります。
 しかし、南北の人権状況や自由の度合いは決定的な差があります。
 
 「朝鮮日報」(日本版)2月17日の記事によると、「最近北朝鮮を脱出した24人が中国で公安当局に逮捕され、このうち9人が中朝国境の都市・吉林省図們市に移送されている」、また「遼寧省瀋陽市や吉林省長春市で身柄を拘束されている脱北者15人も、18日中に北朝鮮に送還される予定」との情報を伝えています。(※保守政党の自由先進党・朴宣映議員発表の情報なので、たぶん左派系の人たちは聞き流したのでは?)
 同紙の翌18日の記事「脱北者:国連、中国に身辺保護を要請」によると、「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)ソウル事務所の代表は17日、中国当局に対し、北朝鮮への送還の危機に直面しているとされる脱北者の身辺の保護を要請した」とのことです。

 つまりは、人権という以前の人命というレベルの問題。
 そんな重大な(はずの)問題が、まさに現在進行していることを、「週刊文春」で上記の写真を見た皆さんにも考えてほしいものです。

 しかし、もし日本人や欧米人が北朝鮮に拉致されたら大きな騒ぎになるでしょうが、北朝鮮と中国の間のことなら「またか」という受けとめ方をしてしまう日本人が多いのでは?
 私ヌルボのみるところ、北朝鮮の人の命の重さは、日本人の命の100分の1ほどにも意識されていないと思われます。

★「朝鮮日報」(日本版) 2月22日では「脱北者:チャ・インピョさんら、送還反対訴える」との見出しで先の「毎日新聞」の記事よりくわしく、コメディアンのイ・ソンミさん、チャ・インピョさんのほか「キム・テヒョンさん、ファン・ボさん、ソイさん、リッキー・キムさん、シム・テユンさんなど、約20人の芸能人たちが立っていた」と記しています。
 また「脱北者の子どもたちを対象としたフリースクール黎明学校の児童・生徒たちが、脱北者の強制送還に反対する集会を開いたのに合わせ、これを助けるために集まったのだ」とあります。
 チャ・インピョさんがこの集会に参加したのも、黎明学校の女性教監(教頭)チョ・ミョンスクさんの求めに応じたものとのことですが、YouTubeにあった動画をみると、とても訴える力のあるアピールだと思います。



 またチョ・ミョンスクさんの涙のよびかけも(韓国語のわかる方はとくに)聞いてみてください。→コチラ

★同じく「朝鮮日報」(日本版) 2月22日の記事「脱北者:「友人を助けて」 中国大使館前で懸命の訴え」という記事では、「「SAVE」という単語が書かれた白いマスクをした」脱北青少年が通うフリースクール黎明学校の在校生と卒業生約30人が、中国大使館に向け「助けてあげてほしい」と目尻を涙で濡らしつつ叫んだ」ことが記されています。

 以前、韓国の脱北者関係のサイトでたまたま見つけた脱北者たち何人かの手記を読んだことがあります。北朝鮮での生活、必死の脱北だけでなく、韓国で懸命に生きるようすを書きいているそれらの中に、黎明学校での学びの苦心と喜びを綴ったものもありました。
 それが何というサイトにあったかは覚えていませんが、たとえば<北韓人権市民連合(북한인권시민연합)>のサイトの中で多くの脱北者の手記を読むことができます。

★以上、韓国の代表的な保守系新聞「朝鮮日報」の記事を多く参照しました。
 一方、代表的な進歩系新聞「ハンギョレ」もこの集会の記事を載せ、チャ・インピョさんにも話を聞いています。
 見出しは「脱北者の北送に反対する理由? 「困難にある人を助けるのに左右はないでしょう」」続く本文の冒頭が、ヌルボとしては引っかかるものがありました。訳してみると次のようになります。

 事実インタビュー前、俳優チャ・インピョ氏(45)に訊きたかったことは、なぜよりによって(하필)脱北者関連示威に出たのかということだった。脱北者支援活動は右派の専有物のようになっている。彼の答えは明快だった。「困難にある人を助けるのに左右は重要ではない」ということだった。彼は「今回の示威に参加したら「セヌリ党の側かと訊かれる」て、「個人的には性向は進歩の側だが、今回はそんなことは問題にはならなかった」と語った。

 ・・・この記者の質問中の「하필」という言葉に、とくに「なんだ!?」と引っかかりました。「何必」という漢字語で、辞書には「よりによって」のほかに「こともあろうに」「何の必要があって」等々の訳語も載っています。
 こういう認識が韓国の脱北者支援活動への一般的な見方ということは、ヌルボもおよそはわかっていましたが、なんとも悲しい状況です。

★今日の「中央日報」(日本語版)には、脱北者の一部が強制送還されたこととともに「韓国外交部は26日から開かれる国連人権理事会で脱北者問題を取り上げることにし、発言のレベルを調整している」と伝えています。
 また今日の「サンケイ」は「北朝鮮が韓国の動き非難」という共同通信配信記事を載せています。

 北朝鮮国内でも、東アジアの国際情勢の中でも、政治に翻弄さけつづけている今回の送還される(された)という人々の今後が懸念されます。

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする