前の記事に続き、川崎図書館で借りてきた韓国書紹介の2冊目です。
せっかく韓国書がたくさんある図書館に来たからには、1冊だけではもったいない、「宝の山に入って手ぶらで帰るなどとは・・・」という「今昔物語集」に出てくる受領・藤原陳忠のように貪欲な気持ちが起こって、さらに物色してみつけたのが「田舎医者の美しい同行(시골의사의 아름다운 동행)」。
著者と書名については以前から知ってはいました。
本ブログの昨年(2011年)4月27日の記事<韓国人が一番会いたい作家は、国内=孔枝泳、国外=ウェルベル>の中で、
「小説家以外で、朴慶哲(パク・キョンチョル)は、<田舎医者>でありながら「田舎医師の金持ち経済学」やエッセイ集を書いてベストセラーに。経済番組も担当しているとか。」
と記しました。
また今年1月2日の記事にあるように、YES24の<第9回ネチズン選定、今年の本2011>で「田舎医者朴慶哲の自己革命」が総合4位にあげられています。
しかしながら私ヌルボ、これまで彼の本を実際に読んだことはありませんでした。
で、たまたま川崎図書館の書架でこの本を見つけ、読んでみるかなと思ったのです。
実は、あまり読む前は気乗りがしなかったのですが・・・。
大体「田舎医者」というと、私ヌルボとしては、井伏鱒二原作の「本日休診」とか、新しいところでは西川美和監督・笑福亭鶴瓶主演の「ディア・ドクター」といった映画のイメージが頭にあって、のんびりした田舎でたまに急患とかはあるものの、やはりのんびりと過ごしている村の老医師を思い起こすのです。それが気乗りのしなかった大きな理由です。
ところがところが、読み始めてみると全然そんなお気楽なものではないのです。
いくつもの実体験が載せられていますが、床が血の海のようになっている中で、比喩ではなく生きるか死ぬかの瀬戸際で何時間にも及ぶ手術のようす、事故や病気のため救急車で担ぎ込まれてきた子ども、そして子の生存を願う親の心情・・・。そんな緊張感に満ちた状況と、その中での家族愛や、人と人の心の交流がとても濃密に書き込まれているのです。
たとえば・・・
大手術も及ばず、死を迎えることになった老女性が、筆談を求めます。「私(朴慶哲)」は遺言を書くのだろうと思い、家族たちを病室に呼び入れます。ところが人工呼吸器を付けたまま彼女が苦心して書いた4文字は「시신기증(屍身寄贈)」。つまり献体の希望だったのです。
登山中に、イノシシと間違われて猟師に撃たれ、全身に散弾を受けた男を救急車で大学病院に運んでいる途中、「私」は同乗の女性インターン生に輸血パックの交換を指示します。ところが病院に電話を掛けた後後ろを見ると、なんとインターン生は輸血パックの交換をせず、リンゲル液だけ取り換えていた・・・。「私」は大声で怒鳴るがインターン生は涙を流しつつも指示に従わない。「私」は車を止めて、自ら輸血パックを交換し、ことなきをえるのですが・・・。後になって「私」が知ったのは、そのインターン生は、輸血を否定している宗教の信徒でした。
その後、交通事故に遭った7歳の子どもが応急室に運び込まれてきたことがありました。輸血しなければ命が危ない状態なのに、その宗教の信者である両親は決して輸血はしないでくれと頼みます。そこで「私」はどう判断したか・・・?
ヌルボが朴慶哲氏はたいした人だなーと思ったのは、怒りながらも当のインターン生と徹底的に議論し、その宗教と彼女の思いにも理解を深めていっていること。そして結局は、彼女もその宗教的信念により人を死に追いやるような可能性のない場に医者としての道を求めることになります。
※韓国にはまだインターン制度があるのか? ・・・と疑問に思ってちょっと調べてみたら、「医学部卒業後、医師免許を取得した医師は、1年間インターン、4年間レジデントとして研修を積まなければならない」ということです。
その他にも、「私」の友人の医師の話ですが、自分の子が急に川崎病になって大変な思いをした直後、後進車に挟まれて運び込まれた小学生の手術をすることになったその医師が、その子の父親の心境に相通じるものを感じて涙をポロポロ流したという話、そして数年後に、中学生になったというその子から声をかけられた、という後日談。
どれをとっても、外科医とはこんなにも強靭な体力・知力・精神力を要するものなのかと驚くエピソードばかりです。
のんびりした田舎医者というイメージがいかにいい加減なものだったかを反省しました。
何を隠そう私ヌルボ、高校時代医学部進学を何となく考えていたこともあって、3年の時は理系クラスに在籍していたのですが、物理等の成績が抜群(下の方に、です)だったこともあって、文系に進路変更したのです。思えばそれは正解だったようです。理系ができないからといって文系に優れているということでもないですが、少なくとも不注意や知力不足で助かる命を死なせてしまうことはないですから・・・。
このようなハラハラドキドキ&感動の、or考えさせるラストのエピソードが35編。1つ1つが4~17ページなので、どんどん読み進むことができます。
・・・といっても、この本も実はまだ半分も読んでませんが・・・。やっぱり韓国書を2冊同時併行で読むというのは無謀でしたね、ははは。一度返却してから、継続して借りるしかないですね。
この本は2005年4月発行して以来版を重ね、続刊も刊行され、電子書籍としても出ています。
上掲の昨年の注目本「田舎医者朴慶哲の自己革命」については、自身のブログを載せているのを見つけました。
また、先に記したように、彼は「田舎医師の金持ち経済学」という本も出していて、経済番組も担当しているとのことで、なんとパワフルなことか、驚くしかありません。
さらにまた驚いたことには、最近は政治がらみのニュースにも彼の名前が出てくるのです。
近づきつつある大統領選に向けての進歩陣営側のキーマン、安哲秀(アン・チョルス)氏の強力な支援者になっているのですね。
昨年2月にはツイッターで「所得の10%を毎年安哲秀財団に寄付することを約定」したと公表したり、9月にはソウル市長選不出馬を宣言したアン・チョルス氏を抱擁して涙を流す写真が報じられたり、5月以降彼ら2人が中心となって展開している「青春コンサート2.0」に韓国の代表的MCキム・ジェドンが講師として参加することが伝えられたり、またテレビにも出演したりして、一体この人のバイタリティはどこから湧き出てくるのか見当もつかないレベルです。
昨年暮れの「東亜日報」の記事によると、COEXで開幕した2011ソウル人形展示会では、有名人をモデルにしたクレイ人形中に潘基文国連事務総長、朴槿恵ハンナラ党非常対策委員長、李健煕サムスン電子会長、李明博大統領、安哲秀ソウル大融合科学技術大学院長とともに、なんとこの「田舎医師」こと朴慶哲氏の人形もあるんですねー! 知名度が高いどころか、ビッグネームの域に達しているようです。
しかし、前の記事で紹介した「タサンの父に」の著者安素玲さんと同様に、文化関係のネタもちょっと背景等を探っていくと、またも、という感じで政治関係の、それもあいかわらずの左右両翼の対立の構図につながってきたりで、記事の書き始めはそんなつもりでもなかったのに、やれやれでございます。
せっかく韓国書がたくさんある図書館に来たからには、1冊だけではもったいない、「宝の山に入って手ぶらで帰るなどとは・・・」という「今昔物語集」に出てくる受領・藤原陳忠のように貪欲な気持ちが起こって、さらに物色してみつけたのが「田舎医者の美しい同行(시골의사의 아름다운 동행)」。
著者と書名については以前から知ってはいました。
本ブログの昨年(2011年)4月27日の記事<韓国人が一番会いたい作家は、国内=孔枝泳、国外=ウェルベル>の中で、
「小説家以外で、朴慶哲(パク・キョンチョル)は、<田舎医者>でありながら「田舎医師の金持ち経済学」やエッセイ集を書いてベストセラーに。経済番組も担当しているとか。」
と記しました。
また今年1月2日の記事にあるように、YES24の<第9回ネチズン選定、今年の本2011>で「田舎医者朴慶哲の自己革命」が総合4位にあげられています。
しかしながら私ヌルボ、これまで彼の本を実際に読んだことはありませんでした。
で、たまたま川崎図書館の書架でこの本を見つけ、読んでみるかなと思ったのです。
実は、あまり読む前は気乗りがしなかったのですが・・・。
大体「田舎医者」というと、私ヌルボとしては、井伏鱒二原作の「本日休診」とか、新しいところでは西川美和監督・笑福亭鶴瓶主演の「ディア・ドクター」といった映画のイメージが頭にあって、のんびりした田舎でたまに急患とかはあるものの、やはりのんびりと過ごしている村の老医師を思い起こすのです。それが気乗りのしなかった大きな理由です。
ところがところが、読み始めてみると全然そんなお気楽なものではないのです。
いくつもの実体験が載せられていますが、床が血の海のようになっている中で、比喩ではなく生きるか死ぬかの瀬戸際で何時間にも及ぶ手術のようす、事故や病気のため救急車で担ぎ込まれてきた子ども、そして子の生存を願う親の心情・・・。そんな緊張感に満ちた状況と、その中での家族愛や、人と人の心の交流がとても濃密に書き込まれているのです。
たとえば・・・
大手術も及ばず、死を迎えることになった老女性が、筆談を求めます。「私(朴慶哲)」は遺言を書くのだろうと思い、家族たちを病室に呼び入れます。ところが人工呼吸器を付けたまま彼女が苦心して書いた4文字は「시신기증(屍身寄贈)」。つまり献体の希望だったのです。
登山中に、イノシシと間違われて猟師に撃たれ、全身に散弾を受けた男を救急車で大学病院に運んでいる途中、「私」は同乗の女性インターン生に輸血パックの交換を指示します。ところが病院に電話を掛けた後後ろを見ると、なんとインターン生は輸血パックの交換をせず、リンゲル液だけ取り換えていた・・・。「私」は大声で怒鳴るがインターン生は涙を流しつつも指示に従わない。「私」は車を止めて、自ら輸血パックを交換し、ことなきをえるのですが・・・。後になって「私」が知ったのは、そのインターン生は、輸血を否定している宗教の信徒でした。
その後、交通事故に遭った7歳の子どもが応急室に運び込まれてきたことがありました。輸血しなければ命が危ない状態なのに、その宗教の信者である両親は決して輸血はしないでくれと頼みます。そこで「私」はどう判断したか・・・?
ヌルボが朴慶哲氏はたいした人だなーと思ったのは、怒りながらも当のインターン生と徹底的に議論し、その宗教と彼女の思いにも理解を深めていっていること。そして結局は、彼女もその宗教的信念により人を死に追いやるような可能性のない場に医者としての道を求めることになります。
※韓国にはまだインターン制度があるのか? ・・・と疑問に思ってちょっと調べてみたら、「医学部卒業後、医師免許を取得した医師は、1年間インターン、4年間レジデントとして研修を積まなければならない」ということです。
その他にも、「私」の友人の医師の話ですが、自分の子が急に川崎病になって大変な思いをした直後、後進車に挟まれて運び込まれた小学生の手術をすることになったその医師が、その子の父親の心境に相通じるものを感じて涙をポロポロ流したという話、そして数年後に、中学生になったというその子から声をかけられた、という後日談。
どれをとっても、外科医とはこんなにも強靭な体力・知力・精神力を要するものなのかと驚くエピソードばかりです。
のんびりした田舎医者というイメージがいかにいい加減なものだったかを反省しました。
何を隠そう私ヌルボ、高校時代医学部進学を何となく考えていたこともあって、3年の時は理系クラスに在籍していたのですが、物理等の成績が抜群(下の方に、です)だったこともあって、文系に進路変更したのです。思えばそれは正解だったようです。理系ができないからといって文系に優れているということでもないですが、少なくとも不注意や知力不足で助かる命を死なせてしまうことはないですから・・・。
このようなハラハラドキドキ&感動の、or考えさせるラストのエピソードが35編。1つ1つが4~17ページなので、どんどん読み進むことができます。
・・・といっても、この本も実はまだ半分も読んでませんが・・・。やっぱり韓国書を2冊同時併行で読むというのは無謀でしたね、ははは。一度返却してから、継続して借りるしかないですね。
この本は2005年4月発行して以来版を重ね、続刊も刊行され、電子書籍としても出ています。
上掲の昨年の注目本「田舎医者朴慶哲の自己革命」については、自身のブログを載せているのを見つけました。
また、先に記したように、彼は「田舎医師の金持ち経済学」という本も出していて、経済番組も担当しているとのことで、なんとパワフルなことか、驚くしかありません。
さらにまた驚いたことには、最近は政治がらみのニュースにも彼の名前が出てくるのです。
近づきつつある大統領選に向けての進歩陣営側のキーマン、安哲秀(アン・チョルス)氏の強力な支援者になっているのですね。
昨年2月にはツイッターで「所得の10%を毎年安哲秀財団に寄付することを約定」したと公表したり、9月にはソウル市長選不出馬を宣言したアン・チョルス氏を抱擁して涙を流す写真が報じられたり、5月以降彼ら2人が中心となって展開している「青春コンサート2.0」に韓国の代表的MCキム・ジェドンが講師として参加することが伝えられたり、またテレビにも出演したりして、一体この人のバイタリティはどこから湧き出てくるのか見当もつかないレベルです。
昨年暮れの「東亜日報」の記事によると、COEXで開幕した2011ソウル人形展示会では、有名人をモデルにしたクレイ人形中に潘基文国連事務総長、朴槿恵ハンナラ党非常対策委員長、李健煕サムスン電子会長、李明博大統領、安哲秀ソウル大融合科学技術大学院長とともに、なんとこの「田舎医師」こと朴慶哲氏の人形もあるんですねー! 知名度が高いどころか、ビッグネームの域に達しているようです。
しかし、前の記事で紹介した「タサンの父に」の著者安素玲さんと同様に、文化関係のネタもちょっと背景等を探っていくと、またも、という感じで政治関係の、それもあいかわらずの左右両翼の対立の構図につながってきたりで、記事の書き始めはそんなつもりでもなかったのに、やれやれでございます。