ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国の作家殷熙耕(ウン・ヒギョン)、「日本文学の魅力は悲観と虚無のスケール」

2011-05-26 23:49:31 | 韓国の小説・詩・エッセイ
 「毎日新聞」に連載中の新世紀 世界文学ナビ 韓国編。8回目は殷熙耕(은희경.ウン・ヒギョン)でした。
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 殷熙耕は、まあ予想の範囲内でしたね。私ヌルボも4月28日の記事「申京淑の小説「オンマをお願い」がアメリカで好評」の中で、5回目の予想で本命孔枝泳の対抗としてパク・ヒョヌクとともにあげておいた作家ですからねー。(・・・と一応言っておきたかった。(笑))

 とはいうものの、実はヌルボ、彼女の作品はまだ読んでいません。その大きな理由は翻訳書が少ないこと。「毎日」の記事にある安宇植先生訳の「他人への話しかけ」と短編「妻の箱」の外は短編1つくらいかも(?)。
 「二重奏」で「東亜日報」新春文芸当選と、長編「鳥の贈り物」で文学トンネ小説賞の2つを受賞して注目のデビューを果たしたのが1995年。同じ年に両賞を受賞したのは1979年の李文烈(イ・ムニョル)、1987年の蔣正一(ジャン・ジョンイル)以来だそうです。以後もいくつも作品を刊行して読者も多く、本ブログ4月21日の記事「韓国の「今」の作家たち」で紹介したように、YES24の恒例の企画している「ネチズン推薦 韓国の代表作家・若手作家」では、05年の孔枝泳、06年の申京淑に続いて07年に[代表的若手作家]に選ばれています。
 それだけの実績のある作家なのに、翻訳書の少ないのはなぜなんでしょうね? (ヌルボの推測もないではないですが、それはいずれ・・・。)

 ・・・ということで、私ヌルボの情報としては、雑誌「新東亜」2月号に載っていた「新作「少年を慰めてやって」を著した殷煕耕」という記事をたまたま読んだり、詩人のウォン・ジェフンが書いた「私はひたすら文章を書き本を読んでいる間だけ幸福だった」という本の中にあった殷煕耕のインタビュー記事を読んだ、という間接的なものにとどまっています。
 ・・・ということで、ヌルボとしても気になっていたので、上記の彼女の新作「소년을 위로해줘(少年を慰めてやって)」をちょうど購入して読み始めたところなのです。(下写真)

     

 「毎日新聞」のきむふなさんの記事で紹介されていた鳥の贈り物については、「統一日報」で「原書で読む韓国の本」を連載している翻訳家吉原育子さんのブログ「韓国ブックカフェ」
紹介されています。

 さて、今回の「毎日新聞」の記事でヌルボが注目したのが殷煕耕自身の次の言葉。
 「日本文学や文化を魅力的にするものは何だろう、と時々考えてみる。それはもしかすると悲観と虚無のスケールではないだろうか。人間が有限な存在だという認識は虚無につながり、それは人々を多少なりとも淡泊で温かく繊細に、そしてユーモアを持つリアリストにするのではないだろうか。3月にあった悲劇を心を痛めながら見つめるうち、また同じことを考えた。運命を受け止めることから来る悲しみには、人生を扱うスケールがある。私はそれを日本文学から学ぶ。」

 本ブログ5月19日の記事で、「21世紀の韓国と、1970年代の日本の文学状況と通底するものがある」と書きました。その共通項こそ明るく軽く、そして意外に根の深い虚無感。日本ではすでに常態化したそんな感覚が、韓国ではこの10数年の間の、新しい時代感覚なんですね。

 最近読んだ李禹煥の「時の震え」(みすず書房)の中に「酒の周辺」というエッセイがありました。以下略述。

 「韓国の雑誌編集者で、すごい美人」というJ女史が「韓国文学にはまだリアリティが生きてますよ」と韓国文学の素晴らしさを訴えると、日本の評論家のN氏と小説家のM氏、「だから韓国文学の印象はうっとうしい」「まだテーマ主義が本流で、依然として意味を求めている感じだね」、と否定的な返事。・・・・「だから文学がまだ自惚の段階である証拠で、表現が対自化されてないと思う」 「結局、リアリティなんて幻影なんだ」と話し続けるN氏に、彼女は憮然とした声で「この酒も幻影かしらね」と言って、いきなりグラスを突きつける。「ゲームだか幻影だか知らないけど、さ、これ飲める?」「いや、これは」「これはエイズ菌入りのお酒さ、どうです?」

 ・・・なんて感じでさらにシッチャカメッチャカな展開に。
 このエッセイが書かれたのが何年かは確認していませんが、日韓の文学状況の年代差を象徴する出来事かもなーと思いながら、ヌルボは興味深く読んだのでした。
そして上記の殷煕耕の言葉。韓国はどんどん変わりつつあるということです。

 さて、この「毎日新聞」のシリーズ。8回まできた韓国編、キリのよい10回まで続くとしてあと2、誰を取り上げるのか、ここでまた予想をたてると、今度は男性。朴玟奎(パク・ミンギュ)、朴賢(パク・ヒョヌク)、尹大寧(ユン・デニョン)、成碩済(ソン・ソクチェ)といったあたりか?