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ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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昭和初期の朝鮮語教本「韓国語大成」を読む

2009-10-04 18:14:31 | 韓国・朝鮮に関係のある本
 先月ソウルに行った時、9月11日に紹介した仁寺洞の古書店・通文館に行ったらあいにく休業日。そこで承文閣のことを思い出して近くを探してみたらすぐに見つかりました。仁寺洞を北から入ると、通文館と同じ右側の少し先です。
 入口は一間ほどしかない小さな店で、本も通文館に比べるとずっと少ないので、あまり期待もせず、版本以外はさほど時間もかからず一通り見てみました。
      

 その中で、掘り出し物というほどではないかもしれませんが、日本でも入手困難な戦前の朝鮮語テキストがあったので買ってきました。

 奥山仙三「朝鮮語大成」(日韓書房)というのがその書名です。

      

 発行は昭和5年(1930年)1月10日。初版が前年6月10日で、これは再版。ただし、著者の辞によれば初版も昭和3年発行のものの改訂増補版です。ということは、かなり需要があった、ということですね。

 まだ緻密に読み通したわけではありませんが、一見して目にとまった特徴は次の通りです。

①ハングルの優秀性を、以下に掲げたように最大限に評価している。
※この本では<ハングル>という用語は使われず、<諺文(おんもん)>とされています。

 「諺文は漢字とは何等の縁故をもたぬ純粋の表音文字であつて、其の構成頗る進歩的、合理的、科学的であり、而かも文字の形態甚だ簡単で、基礎となるべき字数は僅に二十五字に過ぎぬ。数百年の昔、よくも斯くの如き立派な文字が発明されたものと驚嘆せざるを得ない。この諺文こそは、実に朝鮮の有史以来、最も世界に誇るに足るべき、文化的産物であると謂つて差支あるまいと思ふ。」

②現在のハングル表記とはかなり違っている。たとえば、

() 母音aに相当するハングルとして、ㅏの他にヽも用いられている。
たとえば、하다 の하がㅎの下にヽを添えて記される。

() 濃音の表記は、現在はㄲ、ㄸのように子音を2つ重ねるが、この本ではㅅㄱ 、ㅅㄷのように最初にㅅを置いている。
 ただ、「羅馬字で表はす場合と同様に、同文字を二つ重ねてㄲ ㄸ ㅃ ㅆ ㅉの如くして表はすことのあるのは、寧ろ却て合理的だとも謂へる」と奥山は記している。

() 天の音読の천の上部がㅌㅕとなっているように、現在では用いられない表記がある。
※そういえば、林権澤監督の映画「春香伝」のハングル表記も、伝のふつうの表記전の上部がㄷㅕとなっていましたね。

    

③例文の内容が<上から目線>。やっぱり植民地統治の役人用テキスト。
最初に気づいた特徴がこれですね。

 この本の構成は、「第一編 語法」、「第二編 会話」、「附録」に大別されていますが、とくに全体の6割ほどを占める「第二編 会話」の部分には、実用的な短い文章が場面ごとに23節に分類され、数多く載せられています。

 23節の最初は挨拶等についての「交際」で、その他「飲食」とか「時日・時期」「衣服」等の節の立て方はふつうでしょうが、第2節はいきなり「官庁・事務」。
 その最初の文例が「朝鮮総督は山梨半造閣下でありますが、朝鮮を統治する重任を帯びてから、一生懸命に政治に精励して居る、賢明な為政者でございます」。(長い!!)
 以下、「帳簿や文書をよく整理して下さい」はまあいいとしても、「新聞紙上に報道されては困るから、秘密が漏れないやうに、気を着けなさい」とか「厳重に尋問して、犯罪行為を皆自白するやうにしなさい」とかを堂々載せるという感覚は、いかに奥山が朝鮮総督府嘱託といってもいかがなものでしょうか?

 「第十六節 樹木」の最初の例文は一連の会話になっています。
 「朝鮮の山は、昔から禿山が、多うございましたか」「そうではなかつたそうです、昔はどの山にも、樹が鬱蒼と茂つて、居たそうであります」「此處の客舎だとか、郡庁だとかを建てるとき、材木をこの後の山から、伐り出したそうです」「それだのに、今は、あんなに禿げてしまつたのですね」「人民達が濫りに、伐るばかりで、植ゑはしなかつたからであります」

 「飲食」や「旅行」等々、ふつうに思える節の例文も次のような上下関係が前提となっているような会話が目につきます。
 「朝飯が出来たら、私の膳も持って来い」
 「時間になりましたから、人力車一台呼んで来ませうか」「それには及ばぬ、電車に乗つて行く方が速いよ」

④「朝鮮の風習」について興味深い記述がある。
 「附録」の部分には、「一、朝鮮語 国語 用字比較例」(食口=家族など)、「二、千字文」に続いて「三、朝鮮の風習」が収められているが、そこでは「社会階級」「服装」「飲食」「年中行事」等々11の項目に分けて朝鮮の社会や生活についての基本的事項が概説的に記されています。

 たとえば「社会階級」中には、日韓併合以前には両班・中人・常民・の4階級があり、「の住家は瓦葺にしてはならぬとか、常民は門構の家を建てたり履石に階段をつけたりしてはならぬとか、両班は入口の正門を其の両側の建物よりも一段高く拵へても可いとか、衣服についても、両班は淡青色のものを使用するが、常民以下は色物の上衣を着けてはならぬとかいふの類」の「八釜敷い区別」があった、とあります。

 「朝鮮の風習」については、他にもいろいろ興味深い記述がありますが、それらは別の機会に紹介しましょう。
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