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『日本に於ける自由基督教と其先駆者』

2017-05-04 | 深井智朗『プロテスタンティズム─宗教改革から現代政治まで』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 5月 4日(木)14時01分47秒

『日本に於ける自由基督教と其先駆者』 から、三並良が深井英五を評した部分を引用してみます。(p277以下)

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 深井はシュミーデル先生に愛されて居た。その頃私はもう神学校には居なかつた。併し彼をよく知つて居た。それで自分には外に志す所があるが故に、学校を止めると、私が市ヶ谷で伝道して居た時に、わざわざ訣別に来てくれたことを今でも忘れない。人には各志がある。惜しいとは思つたが、それを止めやうもない。私は彼とシュウェグラーの「哲学史」と、カントの「純理批判」とを記念の為め交換した。爾来私はこのレクラム本のカントを時より開いて読んで居る。深井が神学校を出たのは、彼自身には出世の初めである。けれども基督業界から云ふと、惜しい人材を失つたものである。
 基督教を私は「いゝ意味で」と附け加へたい─清算した深井は、学校を出て、色々努力もし苦労もしたらうが、それが報いられて現に日本銀行総裁の栄職に居る。併し我が神学校に来る前には数年間同志社に学んだ彼に、どうして基督教が喰ひ入らないで居る筈はない。彼が私に贈った「蘇峰先生古稀祝賀知友新稿」中にある彼の「唯物論批判」を読むと、そのことが明かに分る 此の研究論文中には、明言がしてはないが、確かに一方にはカール、マルクス等の唯物史観を排して居ることは明かである。他方では理想主義に賛意を表して居ることも亦認められる。そして彼の議論は価値論に進展する。さうすると価値論に就てはリッケルトやトレルチさてはマックスウェバーなど近代の独逸の碩学が大に議論を闘はして居るのだ。トレルチもウェバーも決して宗教を排斥するものではない。否之を代表する論者である。リッケルトと雖価値論丈けで済ます訳には行かなくなつた。深井の論文丈けでは、私は彼を評して、理想的懐疑者とでも云ひたいが、それでは丁度水の上に浮く藻のやうなものであつて、精神的安定は得られない。此の場合もっとも有力に働くのは我々の純な「感情」である。感情の大に重んずべき理由あることは、私が前篇で述べた通り、ルードルフ、オットー博士が喝破して居る。一度深井に喰ひ入つた宗教的情操は彼をして遂に断然懐疑を排して理想主義に導き入れるであらうと私は信ずるものである。
 こんな深い意味ある哲学論をしたり、或は純文学論をする深井は傍ら相場をやつたり、色町を漁り歩く実業家と断然類を異にして居ることは明らかである。
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『日本に於ける自由基督教と其先駆者』は全部で640ページの大著ですが、あまり宗教家らしくないキビキビした文章で綴られていて、非常に読みやすいですね。
<「蘇峰先生古稀祝賀知友新稿」中にある彼の「唯物論批判」>は『人物と思想』(日本評論社、1939)に載っていますが、タイトルは「唯物史観の批判」に変更されています。

さて、普及福音教会は一時的に相当な人気を誇り、他のプロテスタント諸派に脅威を覚えさせるほどだったのですが、間もなく寂れてしまいます。
三並良は没落の原因についても率直に語っていて、深井英五同様の醒めた知性を感じさせますね。
参考までに同書の詳細な目次から大項目を抜粋して載せておきます。

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目次
日本に於ける自由基督教と其先駆者  三並良

  前篇
 宗教的信念の進展
第一章 宗教と思想及文化
第二章 初代基督教時代
第三章 民族大移動と文化及び宗教
第四章 文藝復興より啓蒙時代へ
第五章 近代の動き

  後篇
 日本の自由基督教
第一章 ドイツ普及福音新教伝道会の伝道開始
第二章 スピンナー先生とザクセン、ワイマール大公爵
第三章 スピンナー先生の伝道開始とその共力者
第四章 宣教新方面の開展とシュミーデル先生の到着
第五章 普及福音伝道会の主義方針
第六章 伝道会の施設
第七章 伝道事業発展の跡を顧みて
第八章 我日本の新文化と独逸人の協力
第九章 我主義の宣伝と「真理」の発行
第拾章 スピンナー先生の帰国
第拾壱章 帰国後光るムンチンガー先生
第拾弐章 独逸伝道会の危機
第拾参章 先生達の宣伝とそれに不足したもの
第拾四章 自由基督教と自由主義
第拾五章 ユニテリアン及ユニバーザリスト
後記

僕の思出 丸山通一

   附録
一、五十年前の思出
 一、深井英五
 二、佐藤徳介
 三、谷泰吉
 四、宮入慶之助
 五、小川尚義
 六、古谷新太郎
二、伝教五十年々表
三、普及福音教会出版書目
四、巻末の辞 原田瓊生
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