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レーニン夫妻とイネッサ・アルマンドの「三角関係」

2017-11-14 | ナチズムとスターリニズム
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年11月14日(火)10時59分28秒

エレーヌ・カレール=ダンコースの『レーニンとは何だったか』を通読すると、『ワイドカラー版少年少女世界の名作』シリーズの「レーニン」には決して登場しないレーニンの傲岸・粗暴・不寛容・冷酷、また労働者・農民に対する蔑視の深さに、まあ、ある程度の予備知識はあったとはいえ、改めて驚かされます。
暖かい家庭に育ったお坊ちゃまなのに、何故こんなに歪んだ人間になってしまったのだろうか、という謎は残ったままなのですが、女性関係については、家庭環境の影響が比較的ストレートに残ったようですね。
レーニンとイネッサ・アルマンドの関係について、次のような記述があります。(p212以下)

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 手紙の断片から明らかとなる二人の関係は、レーニンに深刻な問題を課していた。ナジェージダ・クループスカヤの問題である。確かな歴史家たちの行なった研究によれば、クループスカヤは早い時期にこの状況を悟り─彼女はレーニンと離れることが決してなかったのだから、彼の気持ちのいささかの変化にも気付くのだった─苦しみ、反発し、それから毅然として地位を明け渡すと申し出た。しかしレーニンにはそのつもりはなかった。イネッサ・アルマンドとの関係は内密の関係なのだ。イネッサはレーニンを彼女に返し、クループスカヤは敬われる妻であり続け、イネッサに友情を感じるようになった。夫と妻と愛人の三角関係ということだろうか。もちろん違う。レーニン夫妻とイネッサはよく会い、時には一緒に旅行していたが、この三人の行く所、瞠目すべき品位と相互の深い尊敬の念が明らかにうかがえた。彼女にとってクラクフは退屈な町であり、そこに住むのが嫌でならなかったが、おそらくは困難な感情的状況に困惑したためでもあろう。一九一三年に彼女はしばらくレーニンの許を離れ、パリに居を構えた。しかしイネッサと別れる決心をしたのはレーニンの方である。もっとも従来通りの親密な関係は続いた。一九一三年十二月、彼女はレーニンに「彼のそばに残ることさえできるのならば、キスしてくれなくてもかまわない」と手紙を書いている。一九一四年五月の手紙でレーニンは彼女にこう懇願している。「私のことを怒らないでくれ給え。君の大きな苦しみの原因は、私のせいだということは良く分かっている」。一ヵ月後、レーニンは彼女にこう頼んでいる。「こちらに来る時には、二人の手紙をすべて持って来てくれ給え」。二人の書簡は、保存されているものを見た限りでは、信頼に溢れると同時に悲痛で、レーニンが自分自身と彼女とにいかに犠牲を強いたかを露に示している。その理由はレーニンの性格を考えれば理解できる。彼は恋愛に関しては、多くのボリシェヴィキが抱いた自由な考え方を持つことは決してなかった。アレクサンドラ・コロンタイが自由恋愛を擁護し、さらにはより一般的にセックスの自由を擁護したのに対して、彼は厳しく批判した。謹厳実直な秩序の人であるレーニンは、仲睦まじい家庭で受けた教育、そして十九世紀末のロシア社会の倫理規範の命ずる行動様式に常に忠実であった。
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<彼女はレーニンに「彼のそばに残ることさえできるのならば、キスしてくれなくてもかまわない」と手紙を書いている>とありますが、これは直接話法で書くのであれば「あなたのそばに」でないと意味が通じないですね。
ま、正直、理屈っぽすぎてなかなか理解しにくいレーニン・クループスカヤ・イレッサの「三角関係」は、少なくとも精神的な関係としては相当長く続いたようで、

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彼女が他界した時、打ちのめされ悲嘆に暮れたレーニンの姿は、居合わせた者すべてに深い印象を与えた。それでも彼は彼女を終の棲家まで送る葬列に加わるのであった。心に距離を強いたにもかかわらず、あらゆることが証明しているように、彼女に対して抱く愛は無傷のまま残ったのである。
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のだそうです。(p213)

ウィキペディアのイネッサ・アルマンドの記事は日本語版もそれなりにしっかり書かれていますが、写真が多いのは英語版なので、英語版にリンクを張っておきます。

Inessa Armand(1874-1920)
https://en.wikipedia.org/wiki/Inessa_Armand
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