学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学の中間領域を研究。

「少年少女世界の名作 レーニン」(その1)

2017-11-10 | ナチズムとスターリニズム
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年11月10日(金)22時21分42秒

何気なくレーニンの母方の祖父が購入した領地だという「コクシキノ」を検索してみたら、「古本斑猫軒」というサイトで小学館の『ワイドカラー版 少年少女世界の名作35巻 ソビエト編2』が紹介されていて、そこに、

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レーニン(文:深田良 挿絵:霜野二一彦)
 {一 誕生日/二 レーニンのおいたち/三 いたずらっ子ウォロージャ/四 果樹園のある家/五 コクシキノ村の夏休み/六 中学校と友人たち/七 父の死/八 兄の処刑/九 その後のレーニン/年表/読書ノート}

https://hanmyouken.net/?pid=61908287

とありました。
何じゃこれ、と思って近くの図書館で探してみたら、小学館が1972年(昭和47)に出した児童書なんですね。
B5版で上下二段組み、全部で360ページの立派な本で、その内、「レーニン」は約50ページ程の結構な分量です。
ちょっと不思議なのは、「レーニン」以外は「トルストイ童話」、ビアンキ作「森の動物新聞」、「クルイロフ童話」、バイコフ作「偉大なる王」、「チェーホフ短編」という具合にロシア・ソ連の作家の翻訳なのに対し、「レーニン」だけ日本人が書いた実在の人物の伝記である点ですね。
作者の深田良氏の名前は聞いたことがありませんでしたが、「原稿と絵をかいてくださった先生がた」の中に「深田良(ふかだりょう)大正3年東京に生まれる。日本文芸家協会会員」とあります。(p358)
内容を少し紹介してみると、最初のページ(p147)にタイトルと禿頭のレーニンの写真があって、その下に、

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 レーニンの少年のころは、暖かい家族にかこまれた、元気のいいわんぱく小僧でした。
 しかし、その後、兄の死刑をさかいに、貧しい農民や労働者たちのために、血のにじむような苦労と努力を重ね、ついに革命の主人公になっていったのです。
 これは、そのレーニンの少年のころをまとめたものですが、平和で楽しい社会をつくるには、人びとが力を合わせ、手を握っていかねばならない、ということを、知ることでしょう。
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という一文があり、次のページから本文となって、

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(一)誕生日

 きょうはウリヤーノフ家の、三番めの子どものウォロージャのお誕生日です。
 食堂であたたかい料理の湯気をかこんで、父と母、そして六つちがいの姉のアンナ、四つちがいの兄のアレクサンドル、それにやっといすにすわれるようになった妹のオーリャたちが、この日の主役のウォロージャを、え顔でつつんでいました。
 ウォロージャは、まるまるふとったからだを、さらさ模様のルバシカ(ロシア風のつめえりの男性用うわぎ)につつみ、ひろい額に赤いまき毛が、かわいくたれさがった顔を、母のほうにむけて、小さい口をひらき、
「ワルワーラ、おそいね」
と、いすの下で、足をばたつかせながら、子どもに似合わない、大きな声でいいました。かれはすこしもじっとしていられない、元気にあふれた、いたずらっ子でした。
 ワルワーラは、ウォロージャが生まれたときにきたうばです。そのうばが買い物にでかけて、まだ帰ってこないのを、みんなで待っていたのです。
 よいにおいのライラックの白い花が食卓をかざり、卵や肉、ソーセージのごちそうが、おいしそうな湯気をたてています。
「おにいちゃま、おたんじょび、おめでと。」
 オーリャのたどたどしい片言がおかしくて、家族の笑いがとまりません。
 父イリヤは、教育者らしい、ゆったりとしたおだやかなまなざしで、満足そうに家族たちをながめまわしています。
「まあ、まあ、おそくなってすみません。」
 うばのワルワーラが、もめんの大きなスカートをゆさぶるようにして、へやにはいってきました。よほどいそいできたのでしょう。赤い顔に汗をかき、大きな箱をかかえて息をきらしています。
「はい、ぼっちゃま。これは、わたしからのお誕生日のプレゼントですよ。」
といって、その包みをウォロージャの両手におしこむようにして、手わたしました。
「わーい、なんだろう。まえのときのように、ねずみとりのおもちゃでないといいがな・・・。」
「ウォロージャ、そのいい方はいけません。ちゃんとお礼をいうものですよ。」
 母マリアは、しずかに少しきびしく、ウォロージャをたしなめました。
 ウォロージャは、首をすくめ、ひょうきんな顔をして、ぺろっと舌をだしました。それでもすなおに、
「ばあや、ありがとう。」
というなり、包み紙をびりびりと、やぶいていきました。
「わあー、馬だ、馬だ。」
 ウォロージャは、喜びの声をあげ、いすからとびおりました。それは三頭立ての張り子の馬のついた、そりのおもちゃでした。かれはそれを頭の上に高く持ちあげ、テーブルのまわりをとびはねるようにして、ぐるぐるとまわっていましたが、やがてとびらの外へかけだしていきました。
「ぼっちゃま、ぼっちゃま、ころびますよ。」
 大きな頭を前のめりに、ころびそうな足どりでかけていくウォロージャのあとを、うばのワルワーラが追おうとしました。
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といった具合に、まあ、児童書ですから、ほのぼのとした文体で続きます。
ただ、このおもちゃの馬のエピソードも結末はあまりほのぼのとはしていないのですが、長くなるので、いったん切ります。
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