学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学の中間領域を研究。

『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』

2017-11-01 | ナチズムとスターリニズム
サイモン・セバーグ・モンテフィオーリ『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』(染谷徹訳、白水社、2010)は上巻だけで635ページという結構な分量で、やっと上巻の半分ほどを読んでみましたが、これは良い本ですね。
日経新聞2010年3月21日の書評で青山学院大学教授・袴田茂樹氏が、

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 スターリンについて、彼の広範な人間関係、家族関係や日常生活まで、ここまで掘り下げて生き生きと描いた本はない。その生々しさは、例えは悪いが、週刊誌のゴシップ記事並みで、読者の好奇心を大いに満たしてくれる。全巻、その場に居合わせたような具体的描写の連続で、エジョフ、ベリヤなどが陣頭指揮した血のしたたる政治的粛清、モロトフ、ジダーノフ、ミコヤンなどスターリンを取り巻くソ連の貴族たちの凄惨(せいさん)な権力闘争、彼らの奢(おご)った生活や淫(みだ)らな私生活などが極彩色で描かれている。その迫力ゆえに、上、下2巻千数百頁(ページ)を一気に読ませる力を持っている。
 著者は膨大な資料を漁り、新資料を発掘し、多くの関係者へのインタビューを行った。これを超えるスターリン伝は今後も出ないだろう。

https://www.nikkei.com/article/DGXDZO04373870Q0A320C1MZA000/

と書かれていますが、まるで映像を見るような詳細な描写は確かに大変な迫力です。
ロシア・ソ連史に全くの素人だった私がナージャ・アリルーエワに着目したのは我ながら良い選択でした。
スターリンの人生の中で、アリルーエワの死ほどスターリンの異常に強靭な精神に影響を与えた出来事は他に見当たらないですね。
「鋼鉄の男」スターリンがその75年の人生において茫然自失、情けない腑抜け男となったのはたった二回だけで、最初が1932年11月のナージャ・アリルーエワの死に際して、二回目は1941年6月、ヒトラーに騙されてドイツ国防軍の電撃侵攻を許した時ですが、後者の際は間もなく回復して、獅子奮迅の勢いで最高戦争指導者としての活動を開始しています。
しかし、アリルーエワの死がもたらした精神的衝撃は、革命と内乱の渦中で夥しい殺戮を行なった後でもスターリンに僅かに残されていた「人間性」を最終的に消滅させたようで、その影響は非常に長引きますね。
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