紫陽花の色づきゆけばその日ごと命ちぢみてゆくといふ母
さ夜更けて窓辺に寄ればちんちんと闇にいづくよ鐘たたき鳴く
あらはせぬ思ひの音かたんたんと母はベッドの柵を打ちつぐ 田中蒼治 「かねたたき」から
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神變、風に伏す麥秋のきはみコーダのごとし 臆の人はや
風鳴の余響の里に逝く秋のたましひの実はふかく睡れる
カラマーゾフ響(とよ)もす広野へと姉、傲慢なる深野へと吾妹 人知れず 日高菊雄 「萌黄野」から
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人知らじそめいよしのの下蔭に虚無青ざめて駆け抜けしこと
時のはざま冷たき影のつたひきて我の余白に反歌を記せり
少しずつ永遠になる夕べかなたましいひとつ夏に迷へる 千舘禮子 「翳り」から
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あしひきの山桜花見上ぐれば身を亘りゆく山脈ありき
空に匂ふ花なりし日は夢ならむ桜木の肌初夏に冷えゆく
水無月の緑野に翳を奪はれてゆふべの豆腐ひたすら白し 沼澤聡子 「桜樹」から
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それぞれの方におことわりしていないのだけれど、心に留まった歌を掲載させていただいた。