春風に。
レダと白鳥を描いた後、母の書架から重光葵著、「昭和の動乱」を見つけて読み始めた。
山﨑豊子の「二つの祖国」後半で東京裁判の有様が活写されていたのに感銘し、それまで興味を持たなかった明治以来の日本と世界の近代史について探すようになった。
往時、これが国民的ベストセラーになったという解説に、今昔の相違を感じた。
達意の名文だが、緻密な構成、膨大な史料を編み込み、その都度の人間観察、政治状況は日本のみならず世界各国に渉る。
有能な外交官だった重光は常に日本と日本人を客観視し、冷静に、またそれこそ大和魂の正義感倫理観で、支那事変から第二次世界大戦、敗戦へ至る重く複雑な時代を、日米英中独仏それぞれの比較文化論をも加えながら、簡潔に記述してゆく。
したがって、この名著が達意とはいえ、選ばれる語彙も思想も、かなり高度な日本語であることは避けられない。
私自身、逐語的に全て把握できたかあやしいが、読書として大変な収穫だったと思う。
たまたま実家に帰り、リフォームなどあれこれと重なる滞在のつれづれがあればこそ、こうした名著名文との出会いだろう。
山﨑豊子にせよ、重光葵にせよ、背景には母の読書がある。彼女が健在な頃は、所謂仲良し親娘だったわけではないから、母が病み、施設に入り、物理的にも遠ざかった今、あらためてこれまでは未知だった母の教養や、強い精神内容の一隅に接している。
今日も愛と感謝。