静かな日が続いている。
久しぶりに山崎豊子氏の『花紋』を読む。これはもう30年ほど前、最初に手にして強い感銘を受けた作品。
随分長いことまともな読書を怠けていた脳味噌には新鮮な衝撃だった。若い頃と違い、五十路に入った今、この作品のヒロインのキャラクター造形が、ややエキセントリックに過ぎ、実在感を薄めてしまったようにも思える。
しかし、実在感の希薄さが同時に物語世界での華麗な存在感に直結しているのだから、優れた作家の「語る力」にあらためて目を瞠る。
また日本語のボキャブラリーと文体が豊穣で美しい。カタカナ外国語がほとんどないためか、漢字の持つ非常に緻密で立体的な、視覚の楽しみをくれる。
三島由紀夫に耽溺した時もこんな感じだった。
感謝