例によってNYTimesを読んでいたらピアノの巨匠マウリッチオ・ポリーニ氏が82歳で亡くなったとの記事を発見。最近は体調を崩していたようだが、残念な知らせである。
私がポリーニを知ったのは1972年の大学生の頃に初めて買ったショパン・エチュードのLPだった。それまでサンソン・フランソワのショパンン・エチュードしか聞いたことがなかったので、言葉では言い表せないほど強い衝撃を受けたのを覚えている。それ以来カセットテープに録音して、会社の通勤途中の車のなかで飽きるほど聴いたものだった。その当時には思ってもみなかったが、50歳を過ぎて素人ながらピアノのレッスンに通うようになって、無謀にもこの曲集に挑戦することになったり、みんなポリーニのお蔭だ。
吉田秀和氏がLPの寄せた『ポリーニの弾いたショパンの練習曲集のレコードについては、一行書けば、それでもう充分ではなかろうか。「これは、この曲に関する、最高のレコードに属する」という一行だけで』から始まるライナーノーツがすべてを物語っている。あいまいな音はひとつもないとも。彼は1960年のショパンコンクールに優勝しているのだが、それから12年の時を経て満を持してこのアルバムを発表したに違いない。ほぼ同時に買ったLPがストラヴィンスキーのペトリョーシカとプロコフィエフの戦争ソナタの入っているアルバム。まさか後年になってのだめでまたこの曲に出会うとは。
あまりコンサートに行くことがないのだが、彼の生の演奏を聴いたには1995年にニューヨークのカーネギーホールでのリサイタルだけだ。たまたま海外出張でNYCを訪れていて街角で見かけたポスターにつられて劇場前まで行ったところ、開演直前位にダフ屋から声を掛けられて割と安くチケットを買った。一番奥の方の席だったが、ホール一杯に響くベートーヴェンを記憶している。写真はカーネギーホールに置いてあった当日のプログラムのチラシで額に入れてずっとピアノの上にのせていたのだった。
R.I.P.