オランダ絵画によせて:海の通景

 

 オランダの風景画は、特殊専門分野に細かく枝分かれしていて、例えば同じ風景画でも、自然の風景だったり、市街の風景だったり、また同じ自然の風景でも、水辺の風景だったり、森の風景だったりと、それぞれ画家によって描く分野が異なっている。
 で、海景画もそれ専門の画家が描く。
 
 初期の絵は、王立船の物々しい入港やらド派手な海戦やらを描いたものが多い。ま、おそらく歴史の記録としては意義があるんだろうが、あまり芸術性は感じられない。
 画風も、パパ・ブリューゲルあたりのフランドル風の、どこか図式的と言うか装飾的と言うか、そういうものが目立つ。例えば、海は青緑、船は薄い褐色、帆は白、と塗り分けられていたり。海には、いかにも三角に波が立っていたり。船には、煙を噴く大砲や、はためく国旗が添えられていたり。そして、海には船が、船には人が、うじゃうじゃいたり。

 そのうちに、海そのものを風景として描く、美しい絵が登場する。海というのは本当に多様で、例えば砂浜と岩浜、内港と外港では全然違うし、満ち潮と引き潮では全然違うし、凪と嵐では全然違うし、朝と昼間と夕方では全然違うし、船があるのとないのでは全然違うし……
 で、どのシチュエーションを描いても、どれもそれぞれに趣がある。ホントに海って、いい感じー。

 イギリス、グリニッジの国立海洋博物館には、海景画がゴッソリ所蔵されているらしい。イギリス海景画の歴史は、オランダの海景画家ウィレム・ファン・デ・フェルデ(Willem van de Velde)父子がロンドンに渡ったときから始まるのだという。

 画像は、フリーヘル「オランダの河口、風がちの日」。
  シモン・デ・フリーヘル(Simon de Vlieger, ca.1600-1653, Dutch)
 他、左から、
  フルーム「1602年10月、フランドル沿岸からスペイン・ガレー船を撃ち払うオランダ船」
   ヘンドリック・フルーム(Hendrick Vroom, ca.1563-1640, Dutch)
  ウィーリンヘン「1607年、ジブラルタルの戦いにおけるスペイン提督艦の爆破」
   コルネリス・ファン・ウィーリンヘン
    (Cornelis van Wieringen, ca.1580-1633, Dutch)

  W.フェルデ(子)「凪の海」
   ウィレム・ファン・デ・フェルデ(子)
    (Willem van de Velde the Younger, 1633-1707, Dutch)

  カペレ「帆船のある海景」
   ヤン・ファン・デ・カペレ(Jan van de Cappelle, ca.1624-1679, Dutch)
  ストルク「地中海の港の風景」
   アブラハム・ストルク(Abraham Storck, ca.1635-1710, Dutch)

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