イデオロギーの小説

 
 以前、進学を希望した際に、相棒が私に尋ねた。「どうして進学したいの?」
 私は、「勉強したいから」と答えた。相棒はその回答に100点満点をくれた。そして、「どうして勉強したいの?」と尋ねた。
 私は、「本当のことが知りたいから」と答えた。相棒はその回答にもう100点くれた。そして、「どうして本当のことが知りたいの?」と尋ねた。
 私は、「自分を表現したいから」と答えた。相棒はもう100点くれた。
 結局、「なぜ進学したいのか」という問いに、私は100点満点中、300点を得た。

 「自分を表現したい」という気持ちは、今でも変わっていない。
 
 私は残りの余生、絵を描いて暮らしたいと思っている。また、一つだけ小説を書きたいとも思っている。私の心を瞬時に捉えたものを描くとともに、私の心を永久に捉え続けているものを書くことが、許されるよう願う。
 相棒がイデオロギーの理論的評価を下したように、私は、イデオロギーをテーマに小説に書こうと思う。ただありのままに、そしてそれを読めば、人間、科学、芸術、性愛などの普遍的な意味が分かるように、書こうと思う。

 物語は主人公と、主人公の鏡とを軸に、科学に対するイデオロギーの人格化として、ハーゲン氏やデコルソン氏、ピエーロ氏、名のある某イデオロギー組織、そして最後に、日本社会のイデオロギー性が、順次登場する。同時に、性愛に対する性の私物化として、性暴力の担い手アラレ氏や、性売買の担い手ピカコ女史などを交えて、性愛の意味も問われる。
 登場人物は、それらいずれかに位置づくことになる。

 激動の歴史と、そこに翻弄される数限りない人間たちのなかにあって、自分を譲ることなく、ただその故に、世界を変えることのできる人間。
 美しい自然と、美しい魂とのなかで、それらと矛盾することなく、世界を捉えてゆく人間。そうした人間の感動と苦悩。
 すべてがあるべきものとしてあり、そうなるものとしてそうなってゆく、一つの大きな力。そうした力を担った人間の、感動と苦悩。
 ……それを書いてみたい。

 画像は、シーレ「画家を邪魔するのは罪だ、人生の芽を台なしにすることだ!」。
  エゴン・シーレ(Egon Schiele, 1890-1918, Austrian)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )