




レオン・ヴィチュウコフスキ(Leon Wyczółkowski)。私のメモには、最もフランス印象派的、とある。
ポーランド絵画史においては、印象派という長期的な、揺るぎのない流れがあったわけではないらしい。私のメモに印象派マークがついているのは、「ばっちり文句なし印象派」の女流画家オルガ・ボズナンスカを除けば、ユゼフ・パンキェヴィチ(Józef Pankiewicz)とヴワディスワフ・ポトコヴィンスキ(Władysław Podkowiński)。
けれども、パンキェヴィチは、印象派を過ぎた頃の、セザンヌ的なフォルムやボナール的な色彩のほうが、印象が濃いし、ポトコヴィンスキのほうは象徴主義的な、天翔ける黒馬の絵のインパクトが、強すぎて強すぎて……
対して、ヴィチュウコフスキの絵は、素直に印象派らしい。バルビゾン派のように自然主義的な農村生活の主題。女性はルノワール的に羽のように柔らかく、天真爛漫。素朴で牧歌的な情景を、筆の走りを意識した肉厚な筆致で描く。
かのマテイコにも師事し、もともとは同時代、ポーランド・リアリズムの大家として評価を得ていたヴィチュウコフスキ。彼がウクライナ滞在中に多く手がけた、農夫や漁師の働く姿を、物語的かつ記録的な写実で、細部まで丁寧に描いた一連の絵は、どれも秀逸なものばかり。
が、この時代の画家なら、誰もが一時期は印象派的な明るさの虜になる。ヴィチュウコフスキもまた、旅先のパリにて知った印象派に接近、その光と色彩の効果を試みる。
これによって、同じウクライナの農村を主題とするも、彼の関心は、ディテールよりもエッセンスへと移っていく。画面に輝きわたる、金色と薔薇色の移ろいゆく夕陽。その光と、戸外制作に固執したフランス印象派に特有の、空の反映を思わせるブルーの陰影とのコントラスト。それらが、白いルバーハを着た農民たちと、彼方まで続く大地とを染め上げる。大気には光が滲透し、充満している。確かにフランス印象派的なのだが、どこか内省的で、透徹した感じがするのは、やはりお国柄なのだろうか。
日本美術愛好家の友人、フェリクス・マンガ・ヤシェンスキのおかげで、ジャポニズムへも興味を広げ、まあ、典型的な印象派画家、と言ってしまってもいいくらい。
印象派がモダニズムの先駆だった時代、その印象派をいち早く取り入れた画家として、彼はモダニズム絵画の先駆けとなった。ということで、もちろん、「若きポーランド」運動の第一人者の一人とされる。
世紀未には象徴主義の流れに乗って、彼の色彩も暗いものへと変わっていく。が、まあ反りが合わなかったのだろう、象徴主義の影響からは早々に抜け出て、かつてのように豊満な、だが金と薔薇にこだわらない多彩な色彩に、帰っていった。
そのほうがよかったよ、ヴィチュウコフスキ。
画像は、ヴィチュウコフスキ「ウクライナの耕起」。
レオン・ヴィチュウコフスキ(Leon Wyczółkowski, 1852-1936, Polish)
他、左から、
「浅瀬を渡る漁師たち」
「種まく人」
「クリケット遊び」
「春」
「パランガの海景」
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