




PCの調子が最悪で、特に最下段のキーが機能せず、ほったらかしのこと数ヶ月。元気でやっていますので、心配無用です。
さて、数週間旅行しているうちには、雨が降る日もあるわけで、そんな日は、街歩きはとっとと断念して、当てずっぽうにミュージアムなんぞに入る。スロバキアにはタトラ山を目指して訪れるのだから、「ブラチスラバには寄らないよ、美術館にも行かないよ」と釘を刺されていた私は、スロバキア絵画のことはさっさと諦めて、忘れていた。
が、マルティンにてとうとう雨。マルティンには、マルティン・ベンカ美術館があるというので入ったところ、大当たりだった。すっかりベンカが気に入ってしまった相棒、ベンカの墓参りにまで訪れる始末。
マルティン・ベンカ(Martin Benka)はスロバキアの国民画家として知られ、スロバキア・モダニズム絵画の創始者として評価されている。
ベンカのモダニズムは、特にキュビズムからの影響が強いという。文化的によく似た隣国チェコの都プラハで、キュビストたち同士で熱心に集い、やんやと活動すること三十年。
が、ベンカが熱中したのは、音楽サークルのほうだったらしい。バイオリンを演奏し、カクカクとしたフォルムのキュビックなバイオリンまで自作している。
ベンカの絵のなかでキュビズムは、セザンヌ的なキュビズムどまりで終わってくれている。物悲しく寒々しいフォルムはやがて、ロシア・アバンギャルド的な機能主義とは対照的に、独特の物語を醸し出すようになる。色彩は社会主義的に質素で暗い。土着のフォークアートからインスピレーションを得た、どこか装飾的な表現主義が、画家ベンカのスタイル。
ベンカは、このスタイルで、スロバキアの精神を描き出す。農民の働く姿、その行き帰りや合間の姿。彼らは昔ながらの質素な衣服を着、道具を携えている。そして遠くには、タトラの山々が連なっている。
ベンカは、こうした造形を生み出すために、スロバキアの色、スロバキアの形を探し求めて、地方を旅してまわったという。田園の風を吸い、土を嗅ながら、その土地の自然と生活を写し取った。
自分でも郊外に別荘を建て、そこが私たちの雨宿りのベンカ美術館となった。
画像は、ベンカ「畑で」。
マルティン・ベンカ(Martin Benka, 1888-1971, Slovak)
他、左から、
「荷を背負う二人の農婦」
「平野」
「シュピシュの聖堂」
「リプトフにて」
「牧草地へ」
Bear's Paw -絵画うんぬん-