水溶々、空溶々、大地溶々

 

 ヤン・スタニスワフスキ(Jan Stanisławski)は、クシジャノフスキとともに、私がポーランドの風景画家として、ずっと以前から名前だけはインプットしていた画家。ポーランドに行けば、どの美術館でも観ることができる。
 で、実際に観てみた感想として、私のノートには、「大雑把、手抜き、粗放、いい加減」なんて書いてある。

 確かに彼の絵は雑で大まか。細部まで綿密に描こうなんて、そもそもしない。ある程度の大きな画面なら、それで良い味が出ているのだが、これが小品となると、ほとんど油彩スケッチで、しかも何を描いているのかよく分からない。だが彼本人は、小品を好んだらしく、わんさと描いている。壁面の一角に、小品ばかりがレンガを積んだように固まって飾られていれば、それはスタニスワフスキのもの。

 大学では数学を学んだというスタニスワフスキ。数学を専攻し、絵に転向した画家というのは、ちょっと珍しい。

 抽象的思考を好む人は、具象をハショる癖がある。と言うか、具象的イメージから抽象的概念を得た後には、そのもともとのイメージが消えるにまかせる癖がある。
 スタニスワフスキの絵にも、そんなところがある。現実からイメージを得た後には、いくらでも簡略化していく。

 簡略化という行為は、画家の表現上の特権だ。画家は普通、初期には、アカデミックな修行を積む。力量が身につけば、どこをハショって、どうメリハリをつけるかを自在にこなせるようになる。もうこうなれば、誇張も省略も、これすべて画家の裁量、画家の個性。何をどう描いても、画家の勝手。
 だから、スタニスワフスキの風景は、彼という人物を経た彼の心象であっても構わないし、何を描いているのか私なんかに分からなくても構わないわけだ。
 スタニスワフスキは印象派の画家とする解説が多いけれども、私は表現主義的な画家だと思う。

 まあ、とにかくスタニスワフスキは、長いこと数学を極めていたところが、あるときから絵の道に転じ、ワルシャワ、クラクフ、さらにパリにて絵を学ぶ。広くヨーロッパをスケッチ旅行したが、彼が最も魅了されたのは、ウクライナの風景だったという。
 そう言われれば、彼の絵はやけにだだっ広い。はるか地平線まで空が、あるいは大地が広がっている。そこに、白夜を思わせる稀薄な光が照らしている。
 
 こんなふうに描いているうちに、「ムウォダ・ポルスカ(若きポーランド)」運動の重要な位置を担い、アカデミーで後進を育成、戸外制作を広め、いつのまにやら、ユリアン・ファワト(Julian Fałat)と並んで、ポーランド風景画の第一人者となった。

 画像は、スタニスワフスキ「水辺のポプラ」。
  ヤン・スタニスワフスキ(Jan Stanisławski, 1860-1907, Polish)
 他、左から、
  「シェニャバ村の風景」
  「ウクライナの蜂巣箱」
  「ひまわりと小屋」
  「雲」
  「冬のザコパネ」

     Related Entries :
       ヤチェク・マルチェフスキ
       スタニスワフ・ヴィスピャンスキ
       ユゼフ・メホフェル
       ヴォイチェフ・ヴァイス
       ユリアン・ファワト
       レオン・ヴィチュウコフスキ
       ユゼフ・パンキェヴィチ
       ヴィトルト・ヴォイトキェヴィチ
       オルガ・ボズナンスカ
       コンラート・クシジャノフスキ


     Bear's Paw -絵画うんぬん-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 世紀末への共鳴 雪原に生きる »