雪原に生きる

 

 ユリアン・ファワト(Julian Fałat)は、まばゆいばかりの雪景色がとにかく印象的な画家。彼は、川辺にこんもりと雪の積もった、平らかで濃紺の水をたたえた、分岐した川を、同じ角度から何度も描いている。

 ファワトはポーランドの主要な風景画家の一人。印象派を代表する画家、とも言われるが、私は、彼の雪景はロシア移動派あたりのリアリズムを連想する。
 もっと憂鬱で暗喩的だと思っていた「若きポーランド」派だったけど、けっこう幅があるんだな。ファワトの絵は、ひねくれたり、ねじ曲がったりしていない。テーマの偏好はあるけれども。

 彼はは一徹な人柄だったんだと思う。家族の援助も奨学金もなしに、とにかく自分の努力で絵を勉強したという苦労人。初等教育を終えると、はるかウクライナへと旅立ち、製図やら発掘やら、建築家のアトリエにも出入りしながら、働いて金を貯め、金ができれば早速、ミュンヘンに旅立って絵の勉強。金が底をつくと、画業を中断して働き、高じて鉄道建設の技師になる。
 そんなこんなで、働きながら、それでも絵の勉強をやめなかった。

 ファワトはヨーロッパとアジアをくまなく旅し、旅先の情景を水彩で記録した。これらはほとんどが失われてしまったというが、その後も彼は、おそらく自分のためにだろう、水彩でじゃんじゃん量産している。

 彼が向かったのは、風景、それも祖国ポーランドの風景、それも特に、雪の降り積もった冬景で、そこに人間が登場するとすれば、彼らは狩猟をしている。
 雪中の狩人というテーマは、北ヨーロッパの厳冬の日常シーンの一つ。人間味がじわりと滲む、けれども心癒される情景ではない。
 こんなシーンに心惹かれる理由は、ポーランドの片田舎のような、雪に埋もれた森に閉ざされた小村にでも住んでみなければ、分からないのだろう。空調の効いた部屋で、凍てつく雪原の大地をいくら眺めたところで、その神秘、不安や感動、霊験は、なかなか感じられまい。
 ……と、生まれも育ちも雪国とは無縁な私は、自虐的になってみる。が、独特の歴史と自然と信仰、欠陥とも言える特性が、ポーランド絵画の美の精髄に違いない、というファワトの言は、心にとめておくことにする。

 ファワトはヤン・スタニスワフスキとともに、ポーランド風景画の第一人者との評価を得、ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世に招かれて、ベルリンの宮廷画家となった。 

  画像は、ファワト「雪」。
  ユリアン・ファワト(Julian Fałat, 1853-1929, Polish)
 他、左から、
  「祈る老人」
  「湿原の日没」
  「熊を連れた帰還」
  「狩猟からの橇での帰還」
  「クラクフ近郊ブウォニエ」

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