チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
+昭和50年代~現在のお話も・・・

第196話 ヨシヒサおじさん

2015年01月21日 | チエちゃん
ヨシヒサおじさんは、東京に住むチエちゃんのお父さんのお兄さんです。
一家は浅草で食堂を営んでいたわけですが、戦争が始まり、日に日に空襲が激しくなってきたため、おじいちゃんおばあちゃんの故郷である福島の田舎へと疎開したのです。
それ以前に、わずか15歳で志願兵として海軍に入隊していたおじさんは、復員後に田舎へとやってきました。
東京の下町の暮らしから、何もない田舎へと引っ越したわけですから、田舎暮らしが性に合わなかったものか、継母であるおばあちゃんとの折り合いが悪かったものか、ヨシヒサおじさんは一人東京へと戻って行きました。
それから、どんな馴れ初めなのかチエちゃんは知りませんが、ひとり娘のアキ子おばさんと結婚し、婿養子になったのでした。
アキ子おばさんはきれいな人で、上品で、垢ぬけていて、いかにも東京の人という感じなので、おじさんのどこに惹かれたのかなと思います。
そして、一男一女を儲けます。
おじさんが、こんなことを言っていたのを思い出します。
「チエちゃん、悪いけどね、おじさんのふるさとはこの田舎じゃないよ。浅草だよ。」
その時の私には、よく意味がわかりませんでしたが、今なら分かります。
多感な少年時代を過ごしたその場所こそが、おじさんにとってのふるさとであったのだと。

おじさんはとても話好きで、田舎に帰ってくると朝から晩までおしゃべりを続けています。
そんなおじさんに辟易しているおじいちゃんも、おばあちゃんも、お父さんも、夜はさっさと寝てしまいます。
ひとり残されたお母さんが、夜遅くまでおじさんの話し相手となるしかなく、「おじさんが早く寝てくれないものか」とチエちゃんによくこぼしていたものです。

ところで、ヨシヒサおじさんの仕事は警察官でした。それも、刑事。
おじいちゃんの血を受け継いでしまったおじさんは、世話好きのお人好し。
そんな風にチエちゃんの目には映っていましたから、人の良さそうなおじさんは本当に刑事なのだろうか?
犯人にバカにされないのだろうか? 秘密を守れるのだろうか?
それに、おじさんの子どもたちマー君とアッちゃんも、のほほんとしていて刑事の子とは到底思えません。
(おじさんの職業と家族は全く関係のないことだが、チエちゃんはこう思っていた)
テレビドラマ「七人の刑事」の芦田伸介みたいなかっこいい刑事さんにはなれないなと思っていたチエちゃんなのでした。
チエちゃんはテレビの影響で、刑事といえば殺人事件を扱う捜査一課と思い込んでいたわけですが、実際のおじさんは泥棒相手の捜査三課の刑事であったろうと思います。
それも、所轄のいわゆるたたき上げというやつで、階級は退職時の一階級特進で警視だったようです。
それでも、いつだったか「おじさんはね、これでも知能犯係の班長なんだよ」と自慢していたことがあったっけ。

そんなおじさんが、たった一度だけチエちゃんに刑事の顔を見せたことがあります。
チエちゃんたちがおじさんの家の遊びに行き、帰るという日におじさんが出勤前に上野駅まで送ってくれたのです。
「じゃあ、気をつけてね。また、東京に遊びにおいで。悪いけど、仕事があるから先に行くよ。」
そう言って、きびすを返したおじさんの顔が一瞬で引き締まり、全くの別人になりました。
内ポケットから取り出した警察手帳を駅員さんにチラッと見せて、颯爽と改札を抜けていくおじさんは、とってもかっこよかった。
「やっぱり、ヨシヒサおじさんは本当に刑事さんなんだ。」


追記:伯父の葬儀にて、この記事を弔辞として読んだ後、伯父と同僚であった方から声をかけていただき、知能犯係というのは捜査二課とのことです。私は、またまた思い違いをしていたわけです。
また、その方によると、テレビドラマ「七人の刑事」は「まさに、私たちのデスクの横で書かれたんですよ」と言っていらしたので、もしかしたら伯父もモデルの一人だったかもしれません。
いやはや、です。


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