チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
+昭和50年代~現在のお話も・・・

第118話 トヨタ・マークⅡ ハードトップ

2007年10月08日 | チエちゃん
 その電話は、修学旅行から帰った数日後のチエちゃんに、突然、掛かってきました。

「チエ~、電話だぞ~」
「うーん、だれ~?」
「てるよしとか言ってるぞ」
「???・・・」

理解できるまで、少しの時間が要りました。

 中学の時、ちょっとの間、お付き合いをしていた てるよし君からでした。
「会いたい」という電話です。
チエちゃんの中では、もう終わった恋でしたから、ためらいもありましたが、取りあえず、会う約束をしたのです。

 数日後の日曜日、チエちゃんは家族には単に友達に会うからと言って、約束の場所へと出かけました。
そこに待っていたのは、黒と見まがう程の深い緑色のトヨタ・マークⅡハードトップの運転席に座った てるよし君でした。

 てるよし君は農家の長男です。
春に農業高校を卒業し、家業を継ぐことになったのでしょう。
ご両親は彼のわがままに負けて、こんなスポーツカーを買い与えたに違いありません。家業を継いだことへのご褒美でしょう。
チエちゃんの村でも、仕事を求めて都会や地方都市へ出て行く若者が多く、地元に残り、農業を継ぐ若者は貴重な存在だったのです。

 カッコイイ車を手に入れたら、次はナビシートに乗せる女の子です。
男の子なら、誰しも考えることです。
それで、てるよし君はチエちゃんのことを思い出したのでしょうか?

てるよし君は、チエちゃんをドライブに誘いました。
チエちゃんは少し話をしたら帰ろうと思っていたので困惑しましたが、スポーツカーに乗って、ちょっとしたデート気分を味わってみたい誘惑に負けてしまったのです。

「どこに行く?」
「A高原に行きたい」
チエちゃんは、紅葉で有名な観光地を指定し、途中の車の中では、お互いの近況や友達の噂話、思い出話に楽しい時を過ごしました。
A高原に着く頃になって、あやしい雲が覆い始めていた空から、ポツポツと雨粒が落ちてきました。そして、とうとう土砂降りになってしまったのです。
目的地に着いても、二人はマークⅡから降りることができませんでした。

 あのよ~、チエ・・・・・

 ・・・・・

見詰め合った二人の間に沈黙が訪れ、気まずい雰囲気が流れました。
チエちゃんは、ドキドキしました。これは、かなり、やばい状況です。

 帰ろっか?

 うん、帰ろう!

チエちゃんは、内心ほっとしました。


 それから、チエちゃんは2~3度 てるよし君からの誘いの電話を受けましたが、二度とその誘いに応じることはありませんでした。
付き合う気もないのに、てるよし君と会うことは危険だと感じていたからです。
チエちゃんは、両親の苦労を見て、農家のお嫁さんにだけはなりたくないと思っていたのです。

 チエちゃんは、まだ16歳。やっと大人の入り口に立ったばかり。
こうして、ひとつ、大人への階段を登ったのでした。


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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大人かあ (ムーミンパパ)
2007-10-08 15:26:16
急に大きくなったチエちゃんに、
読んでてどきどきしてしまいましたよ。
自分の恋愛はどうだったんだか、ちょっと思い出しちゃうしね。
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待ってました!青春編 (影武者所長)
2007-10-08 20:18:31
いやぁ~、ほれにしてもアレだなぁ。

通常の【幼少編】も いいげんちょ、【青春編】もいいなあ~~

誰しも、一度や二度は似たような経験してるハズだわな。

オレの場合はよ…って話、始めっと長くなっから 辞めどぐわ。



ところで【青春編】では、前回の「ロータリーエンジン」といい今回の「マークⅡ」といい、『車』が大きなカギを握ってるな。

今後、「青春時代のチエちゃん」に、どんな車が登場すんだべな?

楽しみだしたo(^-^)o
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そういえば・・・ (エー)
2007-10-09 08:16:40
同級生の間でも、「家に残れば、車を買ってやる!」は、常套句でしたね。(笑)
結構、親から欲しい物をせしめた人、いたかも???
チエちゃんの青春編、ドキドキ、ワクワク・・・。
車が、キーポイントなの・・・ね。
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ケンとメリー (ラブっち)
2007-10-09 16:42:56
マークⅡに思い出ありだったのね・・・。
私は、ケンとメリーの愛のスカイラインに、
ほろ苦い思い出があるわ~。

そうそう、チエちゃんは、5歳の時に盲腸の手術をされたのね・・・。
私は、小学4年生の9月の初旬だったわ。
この年、私のクラスは、5月頃から、11月頃まで、毎月、二~三人ずつ盲腸で入院してたわ~。
そして、10月には、担任も胆石になり、クラスは、10人ずつ、他のクラスに編入して勉強しておりました。
チエちゃんのブログにお邪魔していると、
懐かしく、忘れていた事を思い出しますわ~。(笑い)
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入り口 (うし)
2007-10-09 17:08:47
入り口に立ったんですね(笑)
きっと大抵の人は入り口に立つんだろうけど
立たない人もいるのかなあ。
入り口に立ったまんま、年を取る人もいるのかなあ。
周りを見渡して、そんなことを思ったりしました。
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またまた (チエ)
2007-10-09 20:55:36
> ムーミンパパさん
突然ですみません。
それだけ、ネタがなくなっているということです。
中学とか高校の頃って、中途半端な年齢ですよね。
親にも、もうオトナなんだからと言われてみたり、あんたはまだ子供なんだからと言われて見たり・・・
大人って都合いいなあと思っていました。
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オレの場合はよ (チエ)
2007-10-09 20:59:17
> 影武者所長さん
の続きを聞きたいなあ!
なぜか、車の思い出と重なっているのですよ。
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常套句! (チエ)
2007-10-09 21:04:35
> エーさん
そうですね。若者を引き止めておくための手段として、車は大きな役目をしていました。
てるよし君のマークⅡも、出たばかりで、相当高かったと思うんです。
それに、コロッと乗ってしまった私も、おばかさんでした。
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ケンメリ スカイライン (チエ)
2007-10-09 21:08:06
> ラブっちさん
若者に絶大な人気の車でした。
そうですか、ほろ苦い思い出、今度聞かせてくださいね。

盲腸って、なぜか流行るんですよね?
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入り口に立ったまんまの人 (チエ)
2007-10-09 21:11:42
> うしさん
そういう人が、うらやましいです。
周りには歓迎されないのでしょうけれどね。
大人になんか、なりたくなかった。
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