チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
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第120話 おりみき

2007年10月17日 | チエちゃん
 チエちゃん家と村道の間にある土手の中腹には、掘りっこ(用水路)がありました。
これは、農業用の用水路で、冬期間は水を堰き止めるため干上がっていますが、春から秋にかけては、とうとうと流れていました。

 毎年、秋になると、掘りっこの側面に用いられた朽ちかけた板や杭に、茶色のきのこが出たのです。
おりみき」と呼ばれるこのきのこをチエちゃん家では、たいそう楽しみにしていました。
なにしろ、山へきのこ採りに出かけなくとも、自宅近くで手に入れることができたのですから・・・
秋の長雨が続いた後に、ニョッキリと生え揃ったおりみきを、例の如くチエちゃんはおばあちゃんといっしょに採ったものでした。、

そうして、その日の夕食は、早速きのこ汁となるのでした。
大根、にんじん、白菜、秋茄子、ねぎなどの季節の野菜と煮込み、しょうゆ味の汁に仕立てます。
「おりみき」は、なめこが大きく開いた状態に似ており、汁に入れると、少しぬめりがありました。秋茄子との相性はバツグンで、汁物にするのが一番美味しくいただけるようです。
里芋や肉、豆腐、こんにゃくを入れて、いも煮風にしてもよいのですが、私は、きのこ本来の味が損なわれるような気がしています。


 あれは、チエちゃんがいくつの時だったのでしょうか?
この用水路が改修されることになったのです。
朽ちた板・杭を取り払い、コンクリートを流し込み、チエちゃん家へと登る坂道の下には土管が埋め込まれました。


 その年の秋以降、おりみきは二度とその姿を現すことはありませんでした。


 私たちは、利便性や安全性を求めるあまりに突き進み、失ってしまった物の大切さに気づいた時には、二度とそれを手に入れることのできないことに愕然とし、己の愚かさを思い知らされるようです。