元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「黒犬、吠える」

2010-09-19 06:52:52 | 映画の感想(か行)
 (英題:Black Dogs Barking)2009年作品。同年のアジアフォーカス福岡国際映画祭に出品されたトルコ映画だが、私は先日福岡市総合図書館の映像ホールで再上映された際に始めて接した。技巧的には水準に達していないものの、重くて苦い印象が観た後もずっと尾を引く映画だ。これはひとえに作者の当事者意識の強さゆえだろう。

 舞台はイスタンブール。セリム(ジェマル・トクタシュ)とチャチャ(ヴォルガ・ソルグ)はギャング組織の末端で働きながら、いつか自分たちでビジネスをするという野心を抱いていた。知り合いのコネにより、ショッピングセンターの警備の仕事の入札に参加するチャンスが訪れるが、そこはすでに別のグループの縄張りになっていた。ギャングのボスは二人を止めようとするが、向こう見ずな彼らは聞く耳を持たない。やがてセリムの婚約者が誘拐され、事態は切迫の度合を高めていく。



 セリムたちはアナトリアからの移民で、彼らが住む地区は貧民街同然である。ちょっと見渡せば高層ビルが建ち並び、大規模なショッピング・モールもある。この社会的な格差に愕然とするが、さらには彼らを狙い澄ましたように兵役が課せられる。そんな図式は必然的に犯罪の温床となり、発砲騒ぎなど日常茶飯事だ。監督のメフメット・バハドゥル・エル自身がこの地区の出身である。

 撮り方は即物的に過ぎてあまり工夫が成されていないが、全編に漂う不穏な空気は緊張感を呼び込む。興味深かったのが、現地の風習だ。葬儀の際には身内の者が棺桶を担いで街中を練り歩き、埋葬時には鳩を飛ばすのが慣わしになっている。セリムたちは葬儀用の鳩の飼育をして生計を立てているのだが、日本の鳩とは違って足まで羽毛に覆われているのが面白かった。

 こういった移民ばかりのエリアがイスタンブールには数多くあり、そこでは出身地域の生活習慣などがそのまま持ち込まれているという。当然、各セクト同士の軋轢も激しいものがあるのだろう。トルコという国の実相を垣間見たような気がした。
コメント
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