元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ぼくのエリ 200歳の少女」

2010-09-21 06:37:08 | 映画の感想(は行)

 (英題:LET THE RIGHT ONE IN)直截的な残虐性も、きらめく詩情も、北欧の凍てつく空気の中に消えていくような、独特の魅力を持つ映画だ。70年ごろのストックホルムの郊外を舞台に、孤独な少年とヴァンパイアの少女との結びつきを描いたヨン・アイヴィデ・リンドクビストによる小説「モールス」の映画化で、原作者が作品を手掛ける際にインスパイアされたというモリッシーの楽曲のファンであるトーマス・アルフレッドソンが演出を担当している。

 主人公の12歳の少年オスカーは、学校ではイジメられてばかりいる気弱な生徒だ。両親は離婚していて母親と暮らしているが、彼女はあまり面倒を見てくれない。たまに会う父親も“同性の恋人”に夢中であり、それほど子ども好きではないようだ。しかし、自分一人でいる時はナイフ片手に“反撃”のシミュレーションに余念がなく、それなりに暗いものを内に隠している。

 冬のある日、アパートの隣の部屋に中年男とその娘とおぼしき少女が越してくる。オスカーと同世代のように見える娘はエリと名乗り、やはり深い孤独を抱えていて、二人は同病相憐れむように惹かれ合う。一方、街では残虐な殺人事件が連続して起こっていた・・・・。

 ストーリー自体は実にインモラルだ。惨劇を引き起こすヴァンパイアは“悪”そのものであるはずだが、周りの人間達も立派な奴なんか一人もいない。オスカーの両親はああいう有様だし、教師連中も親身になってはくれない。安酒場にたむろする中年男女は皆人生に疲れている。オスカーが手本に出来るような大人は存在しないのだ。さらに彼に対するイジメは熾烈を極め、終盤には命の危機に曝される。

 子どもを冷遇するような環境に置かれ、とても“成長”など見込めないオスカーが、永遠の“若さ”に閉じこめられているエリと仲良くなるのも当然なのだ。相手がヴァンパイアと知っても、オスカーは彼女との付き合いを辞めない。やがてエリとの“道行き”を選択する彼がまったく不幸に見えないのは、その手段しか残されていないという彼の立場に徹底的に準拠しているからだろう。ここでは小賢しい道徳論は通用しない。ただ透徹した“悲しさ”があるだけだ。

 ベルイマンの「ファニーとアレクサンデル」では北欧の夏の神秘的な白夜の描写が印象的だったが、本作では絶望的にまで暗く長い冬の北欧の夜が大きなアクセントになっている。ショッカー場面は多くはないが、見せ方に細心の注意が払われており、効果は絶大である。死臭漂う、冷たくも美しいメルヘンであり、観賞後の余韻は格別だ。子役二人の存在感もなかなかである。
コメント
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