元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アパートの鍵貸します」

2010-09-10 06:29:02 | 映画の感想(あ行)
 (原題:THE APARTMENT )60年作品。その年のアカデミー賞を獲得し、ビリー・ワイルダー監督の代表作とされているコメディ映画だが、私が観るのは今回のリバイバル上映が初めて。感想だが、率直に言ってどこが面白いのか分からない。ワイルダー作品としても「お熱いのがお好き」や「情婦」等と比べても相当に落ちる。あの時代ではこの程度のものが評価されていたのだろうか。

 ニューヨークの保険会社に勤める若手社員のバドは、職場の近くにある自分のアパートを上役の情事のためにせっせと貸し出している。そうすることによって出世を狙っているらしいが、私なんかこの時点で“引いて”しまう。いくら60年ぐらいまでのアメリカは景気が良かったからといって、こんなお調子者が取り立てられるはずもない。



 それでも“いや、こんな奴がいるのだ”と強弁したいのならば、違和感のないようにコメディ・タッチでオブラートにくるんでもらいたいが、それが成されていない。肝心のギャグはすべてハズしっ放し。ちっとも弾まない微温的で平板な展開の連続で、上映時間も無駄に長く、観ていて眠くなってくる。

 人事部長が部屋に連れ込んでいたエレベーターガールがバドの意中の人だったという筋書きは、絶好のお笑いのネタであり、撮りようによってはいくらでも盛り上がるはずだが、本作はそんな気配はない。しかも、ジャック・レモンとシャーリー・マクレーンという芸達者を起用していながらこの体たらくだ。サラリーマンを主人公にした喜劇では、植木等の「無責任シリーズ」の方が遙かに優れている。

 唯一興味を惹いたのが、主人公が勤める会社の造型だ。広いフロアに大量に並べられた机。そこで働く多数の従業員は、一心不乱に職務に勤しむ。そして会社にエレベーターガールがいるのもビックリだ。人件費に潤沢な資金を投入し、それが十分にペイできた時代。幹部が異性関係にウツツを抜かそうが、それを御愛嬌として片付けてしまえる。職場の雰囲気は明るく、クリスマスは社員ぐるみでパーティが開催されたりもする。

 マイケル・ムーアの「キャピタリズム マネーは踊る」の中で、彼の父親の現役時代がいかに楽しく充実していたかを示すエピソードが紹介されるが、本作で描かれていることがまさにそれだと思う。現在の惨状を見るにつけ、70年代以降のアメリカの迷走を実感せずにはいられない。
コメント
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