元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「二重スパイ」

2010-09-24 08:43:47 | 映画の感想(な行)
 (英題:Double Agent)2003年韓国作品。亡命者を装い韓国に潜入した北朝鮮工作員の運命を通して、朝鮮半島の緊迫した現代史の裏側を描き出す。監督はキム・ヒョンジョン。

 朝鮮半島をネタにしたスパイものとしては「KT」なんかよりも出来が良い。脱北した元工作員を南側が安易に信用せず、激しい拷問から始まって四六時中監視がつき、やっと潔白が認められるくだりなど、当時の切迫した情勢を見事に描出している。潜伏したエージェントと接触するプロセスや韓国安企部の状況など、ディテールにも抜かりはない。

 ハン・ソッキュは今回も好演で、実直な安企部職員と冷酷なエリートスパイとをうまく演じ分けている。ヒロイン役のコ・ソヨンも相変わらずキレイだ。亡命後のエピローグは余計だが、全体的な出来としては及第点に達している。

 それにしても、近年は北側だけでなく韓国の暗部も容赦なく描いた映画が今になって作られたことには考えさせられる。物語の舞台になった80年代前半は光州事件や戒厳令などに代表されるように、韓国にとって最もシビアな時代であった。この作品には製作側と観客側の双方が抱く“あの頃は厳しかったが今はそうではない”という認識(あるいは願望)が反映されているのだろう。

 しかし、実際そう思っているのは彼らだけで、近年は日本をはじめとする周辺諸国は“北の脅威”に改めて対峙しなければならない状況に追い込まれている。この“温度差”が今後の展開にどう影響を与えるのか、懸念の残るところである。
コメント
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