元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「私のテヘラン」

2010-09-27 06:28:39 | 映画の感想(わ行)

 (英題:My Tehran for Sale)アジアフォーカス福岡国際映画祭2010出品作品。作品自体はさほど面白くはないが、題材および取り上げられたモチーフは興味深い。テヘランに住むヒロインは、イラン出身でオーストラリア国籍を取得した恋人と結婚し、国外で生活することを夢見ている。舞台俳優でもある彼女にとって、社会的制約が厳しいこの国は住みにくいのだ。

 しかし、健康診断でHIV感染が発覚。オーストラリアはエイズ・キャリアの移住は認めないため、彼女の計画は頓挫する。しかもそのことがきっかけで恋人は去ってしまう。だが、彼女は出国の希望は捨てず、非合法な手段に訴えて目的を達成しようとする。

 まず、戒律が厳しいこの国で、アングラ的な演劇を上演するグループが存在すること自体が驚きだ。考えてみればどこの国にも芝居好きはいるので、こういう活動に走る者達が存在するのは当然なのだ。しかし、これまで観たイラン映画ではそんなことは描かれなかった。しかもエイズに罹患する者もいるとは、イスラム圏のイメージとは相容れない。

 一人暮らしをしているヒロインの生活感をはじめ、いろいろな悩みを抱えている周囲の人々の描写はリアルで、これまでのイラン作品とは随分と趣が違う。違法移民ブローカーの扱いも興味を惹かれた。とはいえ本作はイラン単独の製作ではなくオーストラリアとの合作であり、監督はイラン出身で豪州に移住した女流グラナーズ・ムサウィーなので、それも当然かと思われる。おそらくは監督自身の経験も大きく投影されているのだろう。

 時制を前後させた編集処理や、冷たく寂寞としたテヘランの街の描写など、技巧的には健闘していると言って良い。惜しむらくはストーリーラインが冗長で、話が本筋に入るまで時間が掛かりすぎること。それため、どうしてもメリハリを欠いた作劇が印象付けられてしまう。なお、主演のマルジエ・ワファメールは好演。相手役のアミル・チェギニーも悪くない。寒色系を活かした撮影とバックに流れる音楽はセンスが良いと思う。
コメント
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