ここに一枚の写真がある。
(穂高川を渡る旧形国電)
〔 1980年5月11日 226M : 大糸線 有明-穂高 〕
鉄道に並行する道路を歩いていたとき、列車が来たので撮影したもので、このときは時刻表すら持っていなかった。下回りが下路式ガーター橋に隠れ、正面(後追いなので後面)は影になっていて鉄道写真としては成立しない写真であろう。
大糸線の6両編成の旧形国電であるが、この一枚から各車両の形式および製造番号を特定することができるだろうか。
まず、形式を確認しよう。旧形国電の一般的な形式判定のポイントは以下のとおりである。
(1) 電動車か付随車か(パンタグラフの有無で判断)
(2) 運転台の有無と扉の配置(片運か両運か、客用扉は何枚か、荷物室・郵便室はあるか)
上記(1)および(2)により車両の種類と設備がわかり、クモハ・クハ・クハユニ等が判別できる。
(3) 車内設備(座席配置)
外観が同一であっても、車内設備によって形式は分類される。写真では車内の様子が不明であることも多く、外観だけの判断だと、例えばクハ55とクハ68の区別がつかないこともある。実際に、ロングシートのクモハ60をセミクロスシート化してクモハ54に編入するなどの外観の変わらない形式変更が行われており、旧形国電の分類を難しいものにしている。
上記ポイント(1)~(3)に下記を加えることで、改造編入車や二等車からの格下げ、使用された路線などの情報を読み取ることができる。
(4) 窓の数と配置(客用扉間の窓の枚数、窓間の柱の太さなど)
(5) 車体形状(平妻・半流、リベットやウインドシル・ヘッダーの有無、屋根上通風器の種類、低屋根化など)
以上の(1)~(5)までの情報で形式が特定できれば、旧形国電ファンと言えよう。客用扉の種類や床下機器の配置などから、さらに詳細な製造番号まで特定できる上級者もいる。
※
さて、冒頭の大糸線の写真に戻ろう。左側が松本方面で奇数方になり、左から見ていくと、当時の在籍車両および上記ポイントから以下のとおり形式が判別できる。
〔1両目〕
パンタグラフあり、客用扉3枚、押込形ベンチレーターから、クモハ54101またはクモハ54109であることがわかる。
両車の主な違いはウインドシル・ヘッダーの有無であるが、写真が不鮮明で判別できなかった。
〔2両目〕
パンタグラフあり、客用扉2枚、客用窓の幅からクモハ43804と特定できた。よく見ると、低屋根であることも確認できる。
1977年以前は同形の43800および43802が存在したが、43804とは側面裾のリベットの数が違っていた。
〔3両目〕
運転台のない客用扉3枚の付随車であることから、サハ57401またはサハ57402であることがわかる。
客用窓の枚数を数えると原形サハ57にWCを設置したサハ57401と判別できる。
〔4両目〕
パンタグラフあり、客用扉3枚、ノーシル・ノーヘッダーに見えることからクモハ60022またはクモハ60024と思われるが、写真が不鮮明で断定できない。
ちなみに、60022および60024は乗務員扉や客用扉の違いにより判別可能である。
〔5両目〕
パンタグラフあり、客用扉3枚、扉間窓数6枚、戸袋窓Hゴム、さらにノーシル・ノーヘッダーであることからクモハ54005と特定できる。
〔6両目〕
パンタグラフなし、客用扉3枚、ウインドシル・ヘッダーありであることから、クハ55432、クハ55434またはクハ55436である。
このうち55436は方向板枠がなく貫通幌がついているので、55432または55434である。
なお、両車は乗務員扉や客用扉の形状で判別できるが、写真が不鮮明で判別できない。
以上により、一枚の写真から形式や製造番号が絞り込めた。
僅か6両の車両に、いろいろな情報が詰まっていて、旧形国電は本当に楽しい。上記編成も4両固定編成(松本側)にM車が3両入り、松本寄りの2両はパンタグラフ側を突き合わせているのも面白い。
なお、形式の特定にあたり専門誌の写真やインターネットサイトの画像等を参考にするが、説明の記載が間違っていることもあるので、複数の資料を照合して判断するようにしたい。繰り返して多くの写真・画像をみることが旧形国電の車番特定の極意と言える。
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