気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

遠景  時本和子  

2011-09-15 22:06:09 | つれづれ
真昼間の最上階の角部屋はふいに船出をする気配なり

広き部屋の梁(はり)より垂れ下り飴色の光りゐたりき虫取りの棒

姉が描きし弟幼きすがたにてやはらかき青の中に眠れる

やるせないとはどういふことかとたづねくる十三歳の夏の入り口

きのふの日はきのふで終り 睡(ねむ)る娘の今朝の目覚めの真新(まつさら)であれ

往かむとする子供時代が惜しまれて予定せざりし兜を飾る

買物の時間のずれて出合ひたる空一面の薔薇色のとき

焼き上がり山積みなるも見てをればたこ焼き屋なほたこ焼きを焼く

この家でお店をしようと子は言ひきお勤めに行かず母さんとここで

人形のかしらのやうに引き抜かば楽になるべしこの首重し

自分のではないと言ひ張る父と子のどちらのでもない靴下置かれ

(時本和子 遠景 本阿弥書店)

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短歌人会の歌友、時本和子さんの第一歌集『遠景』を読む。
時本さんは、横浜の森岡貞香短歌講座からスタート。森岡貞香の結社におられたあと、短歌人に移って来られた方である。
私と同年代で、四人家族の様子を題材にした歌が多い。とくに息子さんが思春期のころの歌がおおく、愛情たっぷりのお母さんと、それに応える素直な息子さん。
「この家でお店をしよう・・・」なんて、うちの息子はまず言わないだろう。私もヤツとはやらない。きっと叱られてばっかりだ。息子も娘も、大学進学を機に18歳で家を出てしまったが、子供たちが十代のころそんなに丁寧に接することもなかった。惜しいことをしたと、時本さんの歌集を読んで今更ながらに思ってしまった。
家族の歌のほかにも、目のつけどころの面白い歌が多い。今後、その方面に発展して行かれることを期待している。
なんだか、すごく偉そうな物言いになってしまって、すんません。


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2 コメント

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こんにちは (teruo)
2011-09-16 10:10:35
おそらくはみな体験しどこかで見聞きしたことなのだが、その繊細なかけらをひろいあげて言葉にする。散文ほどのかたちはととのえてはいないが、それだけにかえってじぶんに引きつけた物語性が展開して果てることがない。
いわゆる『かすみさん調』でない部分もあってすこし吹き出しました。

『灰色の眼鏡』の第二首、
一度読んだだけでそらんじることができます。一字一句どうかんがえてもこれ以外はないという作品に出会ったときはしあわせを感じます。
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Unknown (かすみ)
2011-09-16 12:09:40
teruoさん

時本さんは、私と違って「いいお母さん」だと思います。それはそれでしんどいでしょうけれど。

短歌に表現されたものは現実そのものではなく、フィクションであるというのが、読みの基本ではありますが・・・。
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