気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

ありすの杜へ 有沢螢

2011-09-12 15:28:53 | つれづれ
日本語を縦に書くとき少女らのためらふ気配 開始ベル鳴り

死なうかと思ひし時にかかりたり虹を知らせる間違ひ電話

観覧車は五日後の開業待ちしまま廃墟となれりチェリノブイリに

かすかなる憎しみと愛もて夜々に『矩形の空』を音読しをり

葛の花 名さへ知られず踏まれたり。ゆとり教育うけし人らに

霧降りの滝のほとりで「あ」といひしのちの言の葉みづおとに消ゆ

干物喰ふひとりの夕餉わが肉(しし)をなるため生(あ)れし真鰺のひと世

わたくしを知らぬといふ母ひきつれて氷川神社にヨーヨーを釣る

そつと忘れゆくもののひとつにむすめらのなまへもありて母の晩秋

湯豆腐の鍋捨つるとき失ひし家族のかたち面影にたつ

銘仙の座布団一枚 いづこより来たりいづこへゆきし客なる

青柳守音がまづ立ちあがるパソコンの年賀状住所録とりあへづ閉づ

資料室の隅に棲みつく特大のヤマト糊こそ校史をつなぐ

(有沢螢 ありすの杜へ 砂子屋書房)

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有沢螢の第三歌集『ありすの杜へ』を読む。
集題となった「ありすの杜へ」は、今年の短歌人賞受賞作。
有沢さんとは、公私ともに親しくしていただき、わたしの頼もしいお姉さまという感じ。
歌からもわかるように教師であり、母親の介護をし、しかも女性として楽しむべきことは楽しむという「頭の切り替え」のうまい人だと思う。短歌人誌で読んだ歌、新年歌会で最高点だった歌など、忘れられない歌が収録されている。
とりわけ「ありすの杜へ」は、お手本として繰り返し読んだ。そして、有沢さんもお手本として『矩形の空』を読んでおられるのだ。

短歌人会の仲間の名前が出てくる歌も多く、楽しませてもらった。亡くなった青柳守音さん、たしかに五十音順だとはじめのほうに来る名前だから、パソコンの住所録のトップにあるもの納得。
ほかにも引用したい歌がたくさんあり、選ぶのに苦労した。
歌人というのは、ものを見る目の多彩さが大事。それがユーモアを産み、読者をうならせる歌につながるのだと思う。
これからも螢さんから目を離せない。




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