気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

雪とラトビア*蒼のかなたに 紺野万里 

2016-01-03 23:29:34 | つれづれ
むつのはな雪華きよらにこの星をめぐれる水の億年の今

億年のいのち運びて来し水にホモ・サピエンスのつけたる汚れ

三十トンのプルトニウムを溜めてゐる列島にゐて風下を思ふ

大陸のむかうの端で機を織る人とわれとを雪が結びぬ

ラトビアのことばになつた吾が歌を初めて聞く日 全身で聴く

わが歌をつないだ劇と気がついてそのままそこで時が止まりぬ

廃仏となりてふげんは十余年いまだ御身に冥王を抱き

春の雪ひかりあつめて降るときに白にはありぬ表と裏と

大いなる一樹の下を乳母車ゆつくりと行くまだ影を出ず

祖母が締め伯母から母へそして吾へ帯しんなりと金を鎮めて

(紺野万里 雪とラトビア*蒼のかなたに 短歌研究社)

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未来短歌会の紺野万里の第三歌集『雪とラトビア*蒼のかなたに』を読む。

紺野さんは福井県の方で、雪と切り離せない生活をしている。しかも、福井県には高速増殖炉の「もんじゅ」があり、廃炉になった「ふげん」がある。

第二歌集『星状六花』で、表紙にラトビアのゴブラン織りタペストリーをカバーに使ったことから縁が生まれ、ラトビアに招かれる機会を得た。『星状六花』の作品がラトビア語に翻訳され、新聞・文芸誌などで紹介され、朗読会が催され、短歌を題材にした劇まで作られた。その体験はドキュメンタリのように連作になっている(四首目~六首目)。

この出来事を中心に歌集は構成されているが、もともと繊細な感覚で歌を作る方である。
八首目の、白に表と裏があるという微妙な色彩を見ようとする感性に惹かれる。九首目も、はっきりとは言及されていない漠然とした不安を感じさせる。十首目は、「帯の百年」という連作から。最近になって、きものを着るようになったわたしには興味をひかれる連作だった。

ラトビアとの交流のうたが、大きな位置を占めている歌集だが、ほかの歌も丁寧に詠まれており、味わいのある歌が並ぶ。いっそ二冊を出すことができれば、と思ってしまった。

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