気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

パンの耳⑤ つづき

2022-01-29 13:15:29 | つれづれ
空白の耳を充たされ好きだった唄を纏って旅立ったひと
ピエールきみの名のひびきが好きだった耳への余韻ごと抱きとって
(河村孝子 レクイエム、点々)

挽歌。どんな関係の人かはわからないが、聴覚を研ぎ澄まして、音の記憶や感触を書こうとしているところが挑戦的だ。


風祭(かざまつり)近づきさらふ笛の音(ね)が宮より聞こゆ月の出のころ
手暗がりと注意されつつ読みし日の『山椒大夫』叔父の蔵書の
(長谷部和子 二日月の光)

正統派。一首一首の完成度が高い。どの歌にも技巧がしっかり詰まっている。


昆虫のにおいだ 揃いのTシャツの男子がごそりと乗りこんでくる
すれ違うとき車道へとはみ出してくれた向日葵どうもありがとう
(添田尚子 夏のジッパー)

のびのびとした発想の口語の歌。若々しい作者を想像するがどうだろう。


誰が好き ショパンが好きよ 乙女だねえ 笑った叔父の訃報が届く
パレットにこびりついてる絵の具だね 何処へ行くにも離れぬマスク
(鍬農清枝 グレーの領域)

老いの歌もあるものの、それに負けず、発想を若く保つように工夫しておられる姿が見えて、頼もしい。


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