気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2008-11-17 20:59:52 | 朝日歌壇
両頬に胡桃を入れて走る栗鼠ロスの栗鼠らは冬眠せざりき
(舞鶴市 吉富憲治)

天麩羅のあつきころもにつつまれる一膳飯屋の海老のかそけさ
(掛川市 村松建彦)

この秋の花を終えたる金木犀庭木の中に戻りてゆきぬ
(西東京市 中村敬子)

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一首目。作者の吉富憲治さんは、以前アメリカに住んでおられたと思う。朝日歌壇ではお馴染みの名前だ。だから結句が回想の「き」で終わっているのだろう。「・・走る栗鼠ロスの栗鼠らは・・」のリズムが絶妙。ロサンジェルスの温暖な気候が冬眠しない原因だろうが、栗鼠の働きぶり、常にちょこまかと働いている様子が人間を思わせる。それなのに餌を蓄えた場所を忘れたりして、これも人間に似ている。
二首目。一膳飯屋というのが、なんとも懐かしい。そういう庶民的な食堂の海老は本体が小さく衣がぶあついのだ。漢字とひらがなの配分のうまい歌だと思う。
三首目。金木犀の花は独特の強い匂いを発するので、存在感がつよい。その花の時期がおわると、ひっそりと庭木に紛れてしまう。いままでソロで歌っていた歌手がコーラスに戻ったような感覚。「戻りてゆきぬ」と表現したのが巧い。

大皿に天ぷらいつぱい揚げし日は遠くなりけり七時のニュース
(近藤かすみ)