気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

ひきだし

2008-11-15 19:59:20 | きょうの一首
ひきだしを引けど引けざりすぐそばに隠れて見えぬものにくるしむ
(森岡貞香 百乳文)

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難解な森岡貞香の歌にしては、一読でわかる歌。ひきだしの中がゴチャゴチャしているのだ。何かがひっかかって引き出しが引けない。二句切れで、三句以下を見ると、これがなかなか哲学的。「すぐそこに隠れて見えぬもの」とは何だろう。身体に巣食う病気かもしれない。身近な人間の悪意かもしれない。そう思って読むと、深いものがある。
さて、引き出しの歌を言えば、こんな歌もある。
抽出しにたしかに入れたたぶん入れたおそらく入れた入れたと思ふ
(香川ヒサ テクネー)
抽出しはみな少しずつ開いている真昼の部屋に入る蔓の先
(花山多佳子 楕円の実)
女性歌人は、整理が得意で抽出しの中はきちんと片付いているのだろうか。どうもゴチャゴチャしていそうだ。そういう私もゴチャゴチャ派。しかし歌が諸先輩に追いつく日はなかなか来そうにない。

思ひ出せぬことのまはりの引き出しをつぎつぎ開けて暮らす秋の日
(近藤かすみ)