気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

蟲のゐどころ 植松法子歌集 つづき 

2008-11-08 01:14:03 | つれづれ
ひとりなるホテルに聖書取り出して羊を一匹づつ放ちやる

「帰るとは心の吹雪」拾ひたる小石を捨ててそこより家路

葉洩れ日を稚鮎のやうに走らせて春をさらさら流るる歩道

333333と博物誌の日ざかりをゆく蟻の行列

歯に沁みるまで冷やしたる塩らつきよう噛みてひとりといふ桃源郷

鳩居堂に春のはがきを選びをりなづな菜の花おのおの三枚

蝶になる夢を見たのか人になる夢を見てゐた蝶だつたのか

(植松法子 蟲のゐどころ 角川書店)

* ******************************

きのうの続き。いまの日本では、家族と一緒に居ることが幸せと思っている人が多数派。しかし植松さんは、家路につくことに決意が要るような気配で、ひとりで居ることを桃源郷と言っている。なかなか含蓄が深い。どういう経緯でこういう心境になったかは聞くまい。鳩居堂ではがきを選ぶところなど自分の姿を見ているよう。しかしこんなにうまく言い表せない。何度も読み返したくなる歌集だ。