Weblog喫茶 モンブラン

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ほんとうの勇気とは:ソーニャ・ハートネット「銀のロバ」

2007-03-30 23:50:23 | 秘密の本棚

モンブランへご来店の皆様、こんばんは。
「ハリー・ポッター」シリーズの大ヒットで、子供向け小説を大人が楽しむことが改めて認められたような気がしますね。

「星の王子さま」「モモ」「銀河鉄道の夜」など、児童文学の傑作の中には、決して読者を子供だけに限らない、大人に向けての大切なメッセージがこめられた素晴らしい作品が多くあります。

私はこのジャンルの本も結構好きで、本屋さんで時折児童書のコーナーを覗くと、宝石を見つけるように「ピカッ!」と光った本が見つかるので、買ってしまいます。

今日ご紹介する本も、そんな宝石のように輝く一冊。
オーストラリアの女流作家、ソーニャ・ハートネット作「銀のロバ」です。
オーストラリア児童図書賞受賞作品だそうです。

舞台は、第一次世界大戦中のフランス。
ある春の朝、海に近い森の中で、姉妹の少女が目の見えない兵士に出会います。
兵士はフランス戦線で戦っていたイギリス軍の中尉でした。
重い病気の弟が家で兄に会いたがっているとの、母親からの手紙を読み、激しい戦場から脱走し、イギリスの我が家を目指します。
しかし、途中で目が見えなくなり、森の中で行き倒れてしまったのです。

姉妹は10歳のマルセルと、8歳のココ。
兵士と出会ったことで、いつもの森が子供にはたまらなくわくわくする場所に変わりました。
兵士の事情を聞いて、姉妹は何とか力になりたいと思い、こっそり食べ物を運んだり、盲目の兵士がイギリスへ渡る方法はないかと子供なりに考えたりします。

兵士が戦場でずっとお守りに持っていたのは、病気の弟がくれた純銀のきれいな小さなロバでした。
ココは一目で銀のロバのとりこになって、欲しくてたまりません。
けれども、ロバは兵士の何より大切な幸運のお守り。
兵士に会うたび、ココはロバを貸してもらって、静かな午後の森でそれを撫でながら、兵士が話してくれる、ロバが出てくるいろいろなお話を聞きました。

なんとかイギリス海峡の向こうのおうちに、チューイ(中尉)さんを帰してあげたい!
少女たちは懸命に考えました・・・。

・・・とあまり書いてしまってもいけませんのでこのくらいにしておきますが、
ロバという地味で控えめで、真面目な生き物を巡る様々なエピソードや、兵士の記憶に残る戦場の描写を通して、ほんとうの勇気や、人を思いやる心、広く優しい愛とは何だろう・・・ということが、押し付けがましくなくそっと語りかけられています。

ラストはなんともいえず心が温かくなり、じわっとくる心憎いエンディング。
児童書や絵本を読んで思わず涙してしまう時って、ほんとに自分の心の奥の、子供のままでいる部分が素直に反応している感じがしますね。
だから、こういう本は人前で読まないようにしています。
うっかり泣かされちゃうので。(^^;

こういうお話を書ける人が、いつまでも世界のどこかに生まれ続けていてくれる限り、人間もまだ捨てたものではないのかもしれません。