南無煩悩大菩薩

今日是好日也

どんぐりは背くらべをしたがる

2017-01-25 | 意匠芸術美術音楽
版画/畑中純)

山猫:「こんにちは、よくいらっしゃいました。じつはおとといから、めんどうなあらそいがおこって、ちょっと裁判にこまりましたので、あなたのお考えを、うかがいたいとおもいましたのです。じき、どんぐりどもがまいりましょう。どうもまい年とし、この裁判でくるしみます。」

山猫:「裁判ももう今日で三日目だぞ、いい加減になかなおりをしたらどうだ。」

どんぐりたち:「いえいえ、だめです、なんといったって頭のとがってるのがいちばん‘えらい’んです。そしてわたしがいちばんとがっています。」
「いいえ、ちがいます。まるいのが‘えらい’のです。いちばんまるいのはわたしです。」
「大きなことだよ。大きなのがいちばん‘えらい’んだよ。わたしがいちばん大きいからわたしがえらいんだよ。」
「そうでないよ。わたしのほうがよほど大きいと、きのうも判事さんがおっしゃったじゃないか。」
「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなんだよ。」
「押しっこの‘えらい’ひとだよ。押しっこをしてきめるんだよ。」

山猫:「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」

一郎:「そんなら、こう言い渡したらいいでしょう。このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」

山猫:「よろしい。しずかにしろ。申し渡しだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばん‘えらい’のだ。」

-引用/宮沢賢治、「どんぐりと山猫」より-
コメント (2)
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