地方自治を考えるために
政務活動費問題で石川も富山も揺れていますが、地方自治を考えるうえで、工藤律子さんの『ルポ 雇用なしで生きる』は参考になると思います。
私の読後感をひとことで言えば、国(世界)を蔽っている資本主義から社会主義への転換を考えずに、地方自治を充実しても、それは資本主義下の「自治」として、腐敗の根源を除去することにはならず、限定的で未完に終わるだろうというところです。
まあ、構造改革派の教科書のような位置を持つ本ですが、それでも多くの示唆を与えてくれました。例えば(第Ⅳ章 「もうひとつの経済、政治、社会の息吹」より引用)、
人口2700人ほどのマリナレーダ村の村長は、役職に就いてまず最初に、自らの権利のために闘う決断をした村人たちとともに、食べるものにも事欠く状況を打開すべく、700人で「飢餓撲滅のためのハンガーストライキ」を決行した。1980年の夏のことだ。9日間続けた結果、アンダルシア州政府から8億円近い金額の失業対策支援金を手に入れた。
村長は言う。「必要なものが不足している者がいれば、沢山持っている者からとって補充しなければなりません。金持ちは、貧乏人から多くのものを奪っているからこそ、金持ちなのですから」。
1985年からは、近郊にある貴族の農園2100ヘクタールの利用許可を求めて、村人たちとその土地の占拠を実行。土地なし農民の仕事場を確保し、65%を超えていた村の失業率を下げようとする。この占拠行動は…6年間で100回以上。そして91年…勝利を手にする。
村長という役職こそあれ、彼は常に村人全員参加による直接民主主義に基礎を置いて、村の運営を続けている。ハンストや土地占拠といった行動を計画、決定する際も、村人たちと毎日のように村の会議場に集まり、議論を重ねては、物事を進めてきた。…「私は村人全員が村長であるべきだと思っています。だから、ここでは住民総会が最高決定機関です。村のことはできるだけ多くの住民が集まって議論し、決定するのです」。
髭村長は、村長職の報酬も受けとらない。村の高校で歴史を教えて生活している。91年に獲得した土地には、組合形式の農園が作られた。…小作農だった村人たちは組合員となり、安定した収入を得られるようになったことで、遠くへ出稼ぎに行ったり、移住したりする必要もなくなった。組合で働く村人の賃金は、役職に関係なく均一で、1日47ユーロ(2015年現在約7000円)。利益分は、新たな雇用創出に投資される。
村長は、こう続ける。「住宅とはそもそも投機の対象ではなく、人間なら誰もが持つ権利のあるものです。今ある住宅問題は、資本主義が人工的に創り出したものなんですよ」。つまり、投機は住宅を持つ権利を人間から奪う原因を作っているというわけだ。
村長は、こう発した。「私は資本主義が好きではありません」。会場から笑いが起きる。と、さらに言い放った。「なぜなら、それは盗賊であり、腐敗であり、土地を巡る人間同士の搾取を導き、人権はもちろん、すべての権利を打ち壊すものだからです。この世で最も暴力的なテロリストです」。…連帯経済や再生可能エネルギーの推進、食料生産や住宅建設、資源開発などあらゆる用途の土地の公有化など、現在の政治・経済制度とはまったく異なる仕組みを築く必要性を訴えた。そして、それを可能にするのは「直接民主主義」だと。
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『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(工藤律子著2016年2月)を読んでみてはいかがでしょうか。
目次:はじめに/Ⅰ変革を求めて/Ⅱ挑戦者たち/Ⅲ社会的連帯を築く/Ⅳもうひとつの経済、政治、社会の息吹/おわりに
政務活動費問題で石川も富山も揺れていますが、地方自治を考えるうえで、工藤律子さんの『ルポ 雇用なしで生きる』は参考になると思います。
私の読後感をひとことで言えば、国(世界)を蔽っている資本主義から社会主義への転換を考えずに、地方自治を充実しても、それは資本主義下の「自治」として、腐敗の根源を除去することにはならず、限定的で未完に終わるだろうというところです。
まあ、構造改革派の教科書のような位置を持つ本ですが、それでも多くの示唆を与えてくれました。例えば(第Ⅳ章 「もうひとつの経済、政治、社会の息吹」より引用)、
人口2700人ほどのマリナレーダ村の村長は、役職に就いてまず最初に、自らの権利のために闘う決断をした村人たちとともに、食べるものにも事欠く状況を打開すべく、700人で「飢餓撲滅のためのハンガーストライキ」を決行した。1980年の夏のことだ。9日間続けた結果、アンダルシア州政府から8億円近い金額の失業対策支援金を手に入れた。
村長は言う。「必要なものが不足している者がいれば、沢山持っている者からとって補充しなければなりません。金持ちは、貧乏人から多くのものを奪っているからこそ、金持ちなのですから」。
1985年からは、近郊にある貴族の農園2100ヘクタールの利用許可を求めて、村人たちとその土地の占拠を実行。土地なし農民の仕事場を確保し、65%を超えていた村の失業率を下げようとする。この占拠行動は…6年間で100回以上。そして91年…勝利を手にする。
村長という役職こそあれ、彼は常に村人全員参加による直接民主主義に基礎を置いて、村の運営を続けている。ハンストや土地占拠といった行動を計画、決定する際も、村人たちと毎日のように村の会議場に集まり、議論を重ねては、物事を進めてきた。…「私は村人全員が村長であるべきだと思っています。だから、ここでは住民総会が最高決定機関です。村のことはできるだけ多くの住民が集まって議論し、決定するのです」。
髭村長は、村長職の報酬も受けとらない。村の高校で歴史を教えて生活している。91年に獲得した土地には、組合形式の農園が作られた。…小作農だった村人たちは組合員となり、安定した収入を得られるようになったことで、遠くへ出稼ぎに行ったり、移住したりする必要もなくなった。組合で働く村人の賃金は、役職に関係なく均一で、1日47ユーロ(2015年現在約7000円)。利益分は、新たな雇用創出に投資される。
村長は、こう続ける。「住宅とはそもそも投機の対象ではなく、人間なら誰もが持つ権利のあるものです。今ある住宅問題は、資本主義が人工的に創り出したものなんですよ」。つまり、投機は住宅を持つ権利を人間から奪う原因を作っているというわけだ。
村長は、こう発した。「私は資本主義が好きではありません」。会場から笑いが起きる。と、さらに言い放った。「なぜなら、それは盗賊であり、腐敗であり、土地を巡る人間同士の搾取を導き、人権はもちろん、すべての権利を打ち壊すものだからです。この世で最も暴力的なテロリストです」。…連帯経済や再生可能エネルギーの推進、食料生産や住宅建設、資源開発などあらゆる用途の土地の公有化など、現在の政治・経済制度とはまったく異なる仕組みを築く必要性を訴えた。そして、それを可能にするのは「直接民主主義」だと。
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『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(工藤律子著2016年2月)を読んでみてはいかがでしょうか。
目次:はじめに/Ⅰ変革を求めて/Ⅱ挑戦者たち/Ⅲ社会的連帯を築く/Ⅳもうひとつの経済、政治、社会の息吹/おわりに