OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

本気度が高いヴァン・モリソンのライブ

2010-02-18 14:30:40 | Rock

It's Too Late To Stop Now / Van Morrison (Warner Bros.)

いろんなところで冷え込んでいる世情、そんな時こそ聴きたくなるのがヴァン・モリソンの熱い歌声です。

そして本日のご紹介は、ヴァン・モリソンが上昇期だった1973年夏の巡業から作られたアナログ盤2枚組のライプアルバム! 5人のストリングセクションに阿吽の呼吸のリズム隊、そして如何にもプロっぽいホーン陣から成る11人編成のカレドニア・ソウル・オーケストラを率いての熱唱がぎっしり詰まっています。

 A-1 Ain't Nothin' You
 A-2 Warm Love
 A-3 Into The Mistic
 A-4 These Dreams Of You
 A-5 I Believe To My Soul
 B-1 I've Been Working
 B-2 Help Me
 B-3 Wild Children
 B-4 Domino
 B-5 I Just Want To Make Love To You
 C-1 Bring It On Home To Me / 悲しき叫び
 C-2 Sant Dominic's Preview / セント・ドミニクの予言
 C-3 Take Your Hands Out Of My Pocket
 C-4 Listen To The Lion
 D-1 Here Comes The Night
 D-2 Gioria
 D-3 Caravan
 D-4 Cyprus Avenue

さて、これが発売されたのは1974年で、既にその頃の私はヴァン・モリソンに一生ついていく決意を固めていたので、このライプ盤には些か過大な期待をしていました。それはグリグリに暴発した熱い心情吐露が全篇から溢れんばかり! なんて思っていたのですが……。

しかし現実的には、まずA面の思わせぶりが憎たらしいほどです。

なんと初っ端からアメリカが誇るブルース&ソウル歌手の大物、ボビー・ブランドのカパー曲「Ain't Nothin' You」が余裕綽々で披露され、そのゴスペル味を徹底的に自己流に変換していくヴァン・モリソンは流石の力みも聞かせてくれるのですが、パックのバンドに微妙なドサ回りフィーリングが感じられ……。

ですから続くパートで、これしか無いのヴァン・モリソン節を歌いまくっても、何かしらロックもソウルもしていない中途半端な雰囲気にモヤモヤが……。トランペットのキャバレーモードが、いやはやなんともですよ……。

しかしそれがB面に入ると事態は一転、ビシバシにキメまくりのドラムスにローリングするピアノ、唸るギターに蠢くベース、さらに下世話なプローに徹するホーン隊と共謀したヴァン・モリソンが熱血ながら軽いフットワークで歌う「I've Been Working」は、白人R&Bの一番良いところがテンコ盛り!

さらに続くのはサニー・ボーイ・ウィリアムスンが十八番のブルース「Help Me」なんですから、その弾みまくったグルーヴとブルースロックの楽しさが満喫出来ますよ。もちろんヴァン・モリソンが唯一無二のアイリッシュなというか、ちょいと雰囲気が微妙に異なるR&Bフィーリングが♪♪~♪ この軽さが曲者です。

そしてすっかり良い雰囲気になったところで披露されるのが、「Wild Children」のメロウな歌の世界です。あぁ、この甘くせつない語り口は絶品ですねぇ~。演奏パートのアレンジも素晴らしいジャズっぽさを含んでいて、特にミュートトランペッと薄いストリングスが効果的なんですが、歌詞の中身は決してラヴソングではなく、懐かしい過去と新しい時代の到来を詩的に表現しているところが、如何にも「らしい」です。

まあ、そのあたりは日本人には些か理解が難しいところかもしれません。しかし、いよいよ次に歌われるのが、皆が大好きな「Domino」ですから、その躍動する熱い歌いっぷりに素直にシビレても許されでしょうねぇ~♪ しかも憎たらしいことには、そうして盛り上げておいた後に、これまたストーンズもやっているという黒人ブルースの定番曲「I Just Want To Make Love To You」が、実に思わせぶりに演じられる企みには完全KOされますよ。なにしろ肝心な部分の歌詞は歌わないという禁断の裏ワザを使うんですからねぇ。もちろん歌そのものに猥雑な表現が含まれているのは、言わずもがなでしょう。小技を駆使したケレンが見事なギターも良い感じ♪♪~♪ もうこのあたりになると、バックバンドも一座としての纏まりががっちりキマッた熱演続きですよ。

こうして突入するC面が、これまた最高!

まずはサム・クックでお馴染みのカパー曲「悲しき叫び」が、これまた秀逸♪♪~♪ お馴染みのジェントルなメロディがじっくりと醸成されていくヴァン・モリソンの歌唱の魅力、その激していながら、せつせつとした雰囲気の醸し出し方は流石だと思います。

それは続く代表曲「セント・ドミニクの予言」という、これもちょっと日本人には理解不能な宗教的な歌詞を含んだ歌なんですが、しかしそのゴスペルフィーリングというか、厳かな情熱の吐露は十分に感動的だと思いますし、なによりもステージ上の全員が一体となった盛り上げに素直に感きわまる客席のムードが、レコードからしっかりと伝わってくるのです。

そしてさらに憎たらしいのが、こうして神聖にも近い空気が充満したところで歌われるのが、これまた下世話な黒人ブルースの「Take Your Hands Out Of My Pocket」なんですから、たまりません。しかもドロドロのアレンジ、粘っこいヴァン・モリソンの歌い回し、バックバンドのクサイ芝居的な演奏!?! これがブルースロックの白人R&B的解釈の極北というには、あまりにも纏まりが良すぎて、混乱させられるほどです。

まあ、このあたりは素直に楽しんでいれば良いんでしょうけどねぇ……。

しかしそれがなかなか出来ないほど、ヴァン・モリソンの本気度は高いと思います。なにしろ次に披露されるのが不条理な愛に苦しむ男の純情歌「Listen To The Lion」ですよ。

おいおい、ライオンに何を聞くってんだぁ~~。

と、こちらも不条理な気持になったところで、お待たせしましたっ!

ついに最終のD面に入ったところで歌われるのが、ヴァン・モリソンがキャリアの初期に入っていたR&Bバンドのゼムで放った大ヒット「Here Comes The Night」と「Gioria」の二連発!!! 会場のお客さんも、またスピーカーの前のファンも一緒に浮かれて許される楽しさがいっぱいですよ♪♪~♪ もちろん時代が時代ですから、幾分の軽さを取り入れたアレンジと自然体のヴァン・モリソンがそこに居て、おそらくは常にこの2曲ばっかり期待されていた状況があったと思われるのですから、本人は肩すかしを狙ったのかもしれません。

しかし結果は、特に「Gioria」でやってしまう熱血の力み大会が所謂「イイ奴」の証明でしょうか。私は好きです。

そして多分、ここからはアンコールのパートだと思いますが、ヴァン・モリソンといえは、これが出ないと収まらないという、熱血のゴスペルロック「Caravan」が、本当に熱くさせてくれますよ。なんというか、魂の高揚ってやつでしょうねぇ~♪ もちろん祭りの後の一抹の哀しさというか、余韻もたっぷりですから、オーラスのスローな「Cyprus Avenue」が歌詞の意味なんか分からなくとも十分な説得力で効いてくるのです。

あぁ、この虚脱に導かれる歌の魅力こそが、ヴァン・モリソンの真髄かもしれません。

ちなみにアルバムタイトルは、この歌の最後の最後で呟かれた本人の言葉によるものらしく、すると、なんということでしょう、直ぐにこのアルバムのA面が再び聴きたくなって針を落とせば、そこには先ほどはイマイチと思っていた不遜な気持を霧散させる、実にハートウォームな世界が広がっているのです。

う~ん、まさにループなヴァン・モリソン的桃源郷!

もちろん私は本人には会ったこともありませんし、ライプに接したこともありませんから、その人柄は知る由もありません。しかし相当に頑固で、安易な冗談なんか通じそうもない感じを受けます。笑ってごまかすなんていう常套手段もないでしょう。

ですからライヴステージの現場では、ハナからケツまでの真剣勝負がお客さんにも要求されているのかもしれませんし、それゆえにこのライヴ盤も同じ姿勢で聴かなければならないのでしょう。

個人的にはB面ばっかりを聴いていた時期が確かにあったんですが、今は4面をブッ通す気合いと体力がある時だけ、このレコードを取り出しています。

それともうひとつ書いておきたいのが、ブルース・スブリングスティーンなんていう人が、如何にヴァン・モリソンからの影響が大きいか!?! もう歌の節回しやメロディのもっていき方あたりは、このライプを聴けは納得するかと思います。もちろん、あの「力み」はモロでしょうね。

ということで、個人的には恒常的に聴けるアルバムではないんですが、やっぱり聴いているうちに熱くさせられてしまいます。

うん、これが聴けるうちは、大丈夫だっ!

コメント
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