OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

5年ぶりのローラ・ニーロ

2010-02-01 12:55:42 | Laura Nyro

Smile / Laura Nyro (Columbia)

大好きな歌手の新譜が出ることは、音楽ファンにとって至上の喜びですよね。

本日の1枚は私にとって、まさにそんな思いの結実というか、昭和51(1976)年早春に出た、ローラ・ニーロが実に5年ぶりの新作でした。しかも前作「ゴナ・テイク・ア・ミラクル」がカパー曲ばかりだったのに対し、こちらはオリジナル中心という情報が既に入っていましたから、もう辛抱たらまん状態のサイケおやじは輸入盤屋に予約まで入れていたという当時の心境の熱さは、今も変わりません。

そして入手したこのLPには、全くローラ・ニーロでしかない、伸びやかな声で表現される素敵なメロディと深い言葉で綴られた魂の歌がぎっしり!

 A-1 Sexy Mama
 A-2 Children Of The Junk
 A-3 Money
 A-4 I Am The Blues
 B-1 Stormy Love
 B-2 The Cat-Song
 B-3 Midnite Blue
 B-4 Smile

実はここまでの経緯として、その5年の間にはローラ・ニーロ自らの結婚と離婚、さらに最愛の母親との死別という出来ごとがあったそうです。

ですから歌われる内容はシニカルで自嘲的な視点を含みながら、この世の愛の姿と現実を時には冷たく、また夢見るように暖かく描いているのですが、そうした彼女の表現をバックアップするセッションメンバーが、これまた当時のニューヨークでは超一流の面々で、ジョン・トロペイ(g)、ヒュー・マクラッケン(g)、ジェフ・ミロノフ(g)、ジャン・ニグロ(g)、ウィル・リー(b)、リチャード・デイビス(b)、アラン・シュワルツバーグ(ds)、リック・マロッタ(ds)、クリス・パーカー(ds)、デイヴィッド・フリードマン(vib)、ランディ・ブレッカー(tp)、ジョー・ファレル(sax,fl)、ジョージ・ヤング(sax,fl)、マイケル・ブレッカー(sax,fl) 等々、震えがくるほどです。

しかもプロデュースを担当したのが東海岸ポップスの名匠たるチャーリー・カレロですから、ローラ・ニーロは歌と多重録音を駆使したコーラス、そしてピアノばかりでなく、なんとギターまでも弾くという意欲が新しい出発に相応しいところでしょう。

そして、と書いていながらA面ド頭が、これまた私が大好きなスイートソウルのモーメンツが1974年に放ったヒット曲「Sexy Mama」のカパーなんですから、たまりません♪♪~♪ いきなり「ストレンジ……!」なんていうローラ・ニーロの独り言があってのイントロの生ギターからジャズ風味のポリリズム、むせび泣くサックス、しぶといエレギギターの伴奏を得て、彼女だけの味わいが滲む節回しの妙こそ、ファンには感涙♪♪~♪ このアルバムでは唯一の他人の曲が、この仕上がりという嬉しさですよ。

実は裏ジャケットには、おそらくはローラ・ニーロ本人の手書きと思われるクレジットや歌詞がびっしり入っているんですが、それゆえに読みにくいところもありますから、現実的にはレコードを聴いて納得する部分が多く、その意味では用意周到な企みだったかもしれません。

それは後に発掘されたライプ音源で明らかにされたように、既に1970年代初頭から演じていた「Children Of The Junk」や「I Am The Blues」で、尚更に研ぎ澄まされ、完成度と説得力が強くなった表現に顕著だと思います。特に後者はランディ・ブレッカーのアドリブソロも含めた全体のアレンジとローラ・ニーロの弾き語りっぽいピアノ&ボーカルの存在感のが素晴らしいコラポレーション!

また、その前段として置かれたアップテンポの「Money」は当時最先端のフュージョン系AORが、ローラ・ニーロという冷静で情熱的なフィルターを通過して完成された事実を記録した人気トラック♪♪~♪ メリハリの効いたリズム隊のグルーヴ、マイケル・ブレッカーが自分の「節」をイヤミなく聞かせるアドリブソロ、多層的なコーラスの彩りも鮮やかすぎますよ♪♪~♪

そしてB面が、これまたローラ・ニーロ的桃源郷の素晴らしさ!

ギター主体の緻密な演奏バートも凄いの一言ですが、それにもまして愛の別れと新しい出発を強い決意で歌ってくれるローラ・ニーロは、やっぱり不滅です。特に最終盤のハミングと独白のフレーズは、涙が滲んで、胸キュンの禁じ手じゃないでしょうか。

さらに「The Cat-Song」は彼女が十八番の猫の歌を素直に表現しつつ、しかし全体のカラフルでハートウォームな仕上がりはニクイばかりですよ。「吾輩は猫である」のローラ・ニーロ版かもしれませんね。彼女は、読んでいたんでしょうか。

というホノボノとした時間がせつなくなるほど、続く「Midnite Blue」は悲壮なほどに愛する人への想いを歌い、それが実にジャズっぽい演奏パートと激しく対峙するのです。

また、そんなギスギス寸前の表現が、次曲の「Smile」ではイントロに入っている琴の音色で和らげられるというプロデュースも絶品! アルバム全篇で印象深い活躍のリチャード・デイビスのペースが、ここでも凄い音を聞かせてくれますし、ジョージ・ヤングのフルートとテナーサックスも流石ですから、最終パートの琴をメインにしたモダンジャズ的な展開も面白く、ですからローラ・ニーロのボーカルも素敵な余韻を残すんでしょうねぇ~♪

ということで、私には特に思い入れが強いアルバムなんですが、残念ながら世界的にも、それほどのヒットにはならなかったようです。

実はアメリカでは、この作品発表に合わせたプロモーションツアーとライプレコーディングが行われましたから、来日公演を楽しみにしていたんですがねぇ……。

ただし、このアルバムを実際に聴いた皆様には百も承知の事実として、我国の吉田美奈子や矢野顕子が如何にローラ・ニーロからの影響を強く受けているかは、言うまでもないでしょう。

また驚いたというか、嬉しかったのは、これが出たのと同じ年に作られた山下達郎の本格的なソロデビュー盤「サーカスタウン」のA面には、共通するメンツがセッションに参加していたという事実にぶつかったことです。

これまでも度々述べてきたとおり、私はローラ・ニーロ、吉田美奈子、山下達郎、さらにアル・クーパーやトッド・ラングレンという、何時も同じような曲ばっかり作って歌う人が大好きなんですが、それにしても、そんな好みが現実化していたという偶然は、もはや「偶然」なんていう言葉では表せませんよね。

私も「業」が深いなぁ~、なんて本日も自嘲するばかりです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする