OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

チェット・ベイカーとスタン・ゲッツ、何時もやつ!

2010-02-09 15:43:51 | Jazz

Chet Baker & Stan Getz Live In Stockholm 1983 (Oh!vation = DVD)

久々のジャズネタは先日ゲットしてきたDVDのご紹介です。

主役は白人ジャズの頂点を極めたスタン・ゲッツとチェット・ベイカーという、永遠の人気者が共演ライプですから、ワクワクさせられるのはジャズ者の宿命でしょう。

しかし最初に告白しておきますが、サイケおやじは1970年代末頃からのチェット・ベイカーはNGなのが本音です……。いや、もっと言えば、あの輝かしい1950年代中頃までを聴いているだけでも満足してしまうという、偏向したファン故に、このソフトにも相当な悪い予感を抱いていました。

それが実際に鑑賞してみると、吃驚するほどモダンジャズの魅力がいっぱい♪♪~♪

実はこのソース、以前から有名なもののひとつとして、音源だけはLPやCDで幾つも出回っていましたが、映像がこれだけきっちり纏められたのは最初かもしれません。

そして、それだからこそ良かったというか、ご存じのとおり、この時期のチェット・ベイカーは往年の美青年の面影なぞ全く無い、見るからに不健康な佇まいと尚更に中性的になったボーカルのアンバランスが怖さを誘うというのが、サイケおやじの先入観でしたから、結果的にこの映像作品に記録された自然体のジャズ魂が不思議な感動を呼び覚ますのでした。

収録は1983年2月18日、ストックホルムでのライプセッションで、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、ジム・マクニーリィー(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、ビクター・ルイス(ds) という強力なカルテットにチェット・ベイカー(tp,vo) が特別参加した魅惑のグループ♪♪~♪

01 We'll Be Together Again (Stan Getz Ouarter)
02 I'll Remember April (Stan Getz Ouarter)
 この2曲はスタン・ゲッツがメインの演奏ですが、流石は実力派のリズム隊とあって、スタン・ゲッツも安定感のある堂々の吹奏を聞かせてくれます。それはスローな「We'll Be Together Again」でのジェントルな表現、アップテンポの「I'll Remember April」では躍動感溢れる十八番の展開を堪能させてくれるという、まさに王道の二本立て♪♪~♪
 しかし個人的には、それ以上にシビレたのがジム・マクニーリィーの真摯なピアノで、特に「We'll Be Together Again」では完全にバンドをリードする存在感! 自身のソロパートから演奏を終了に導く手際の素晴らしさは秀逸ですよ。ちなみにスタイル的にはエバンス派でしょうが、当然ながらチック・コリアやハービー・ハンコックの影響も取り込みつつ、地味な個性を確立されているのが好印象です。
 また軽く叩いているのにビートの芯が強いビクター・ルイスのドラミング、自己満足と協調のバランス感覚が好ましいジョージ・ムラーツも、侮れませんねぇ。

03 Just Friends (Quitet)
 ここからはスタン・ゲッツのMCに導かれ、いよいよチェット・ベイカーが登場しますが、マイクにぴったり張り付いて寝言のようなボーカルを聞かせてくれる姿は、やはり先が思いやれるのが本音でしょう。しかもスキャットに入っても、意図的かもしれませんが、時折の調子っぱずれとか……。
 しかし段々と調子を上げていく感じがスリルに結びつくと言えば、それは贔屓の引き倒しでしょうか。流石のリズム隊の素晴らしいサポートがありますから、それはそれでジャズを楽しむポイントのひとつだと思います。
 う~ん、ジム・マクニーリィーが良いぞっ♪♪~♪
 ですからチェット・ベイカーのトランペットがアドリブを始めてからのスタン・ゲッツの心配顔が少しずつニンマリしていく様子も、映像作品ならではのお楽しみでしょう。実際、このパートは悪くありませんし、もちろんスタン・ゲッツのアドリブソロに絡んでいくチェット・ベイカーのトランペットも存在感がありますよ。
 いゃ~、ジャズって、やっぱり良いですねぇ~~♪ 

04 My Funny Valentine (Quitet)
 そして始まるのが、これまたチェット・ベイカーでは十八番の中の人気演目!
 それゆえに、常に名演が期待されるわけですが、ポケットに手をつっこんだ姿で地味に歌う本人の佇まいは、良くも悪くもジャズプレイヤーとしての生き様を貫いたチェット・ベイカーそのものだと感銘を受けるほどです。
 もちろん歌と演奏は、先入観が覆されるほどに味わい深いです!
 そして素晴らしいトランペットのアドリブを聞かせてくれた終盤、おそらくは予定外だったのでしょうか、スタン・ゲッツがチェット・ベイカーの耳元に何か囁いた後、これまた素晴らしいテナーサックスを聞かせてくれるんですよっ!
 これを鑑賞出来ただけで、私はこの復刻に感謝しています。

05 Sippin' At Bells (Quitet)
 こうして完全に良い雰囲気になった会場に鳴り響くのが、マイルス・デイビスが書いたことになっているビバップの定番曲ですから、ここはウエストコースト流儀のハードバップが復活の狼煙!
 息の合ったテーマ合奏から流れるようなスタン・ゲッツのアドリブプレイは、やはり華やかにしてモダンジャズの王道を行くものですし、流石のリズム隊も引っ張られるようにスイングしていく様が痛快です。
 そして続くチェット・ベイカーが意想外の安定感ならば、ジム・マクニーリイーはモード節も交えた直球勝負! またジョージ・ムラーツのスジの通ったベースも好ましく、アドリブでの相当にアグレッシプな展開もビクター・ルイスの小技のシンバルワークを駆使したドラムソロに繋がるのですから、結果オーライでしょう。
 たまらず入っていくスタン・ゲッツも貫録ですよ。

06 Blood Count (Stan Getz Ouarter)
 これは嬉しい、スタン・ゲッツが静謐なパラードフレイで会心の歌心を披露した名演です。そして映像では、じっと聞き入るチェット・ベイカーの表情がアップになったりして、なかなか意味深な構成が、ジャズ者の気分を妙に高揚させるでしょう。
 リズム隊の的確なサポートは言わずもがな、丁寧に感情移入するスタン・ゲッツのこの時期の好調さが確認出来ると思います。もちろん客席からの拍手は鳴りやみません。

07 Milestones (Quitet)
 これもマイルス・デイビスのオリジナル曲ですが、有名なモードの方ではなく、それ以前に書かれたビバップバターンですが、それを穏やかな白人ジャズに翻案していくバンドのグルーヴが、実に快適です。
 特にテーマ合奏が終る寸前のスタン・ゲッツのアクションに呼応してアドリブをスタートさせるチェット・ベイカーのハートウォームなムードが最高っ! ですから、幾分のモタツキが散見されたとしても、リラックスしたモダンジャズの魅力が横溢するのです。
 そうしたところはリズム隊の適度に弛緩したノリにも伝染し、そのユルフン感が曲者♪♪~♪ あぁ、ジム・マクニーリィー、集めようかなぁ~♪
 と覚悟を決めそうになった次の瞬間、スタン・ゲッツが唯我独尊の個性的な歌心で待ったをかけるのですから、いゃ~、本当にたまらんですねぇ~~♪

08 Airgin (Quitet)
 これまた有名過ぎるソニー・ロリンズが書いた迫力のビバップ定番曲ということで、激しいリズム隊の煽りを受けたフロントの2人が初っ端から大ハッスル!
 しかも、まずはリズム隊に花を持たせるお膳立てがニクイばかりで、実際、演奏がグイグイと白熱したところで、ハッと我に返ったようにソロパートをスタートさせるチェット・ベイカーが、映像作品ならではの緊張感で高得点! アドリブそのものも、必死の追走という熱気が良い感じですよ。
 またスタン・ゲッツのハードにドライヴしまくったテナーサックスも鳴りが良く、もちろんアドリブフレーズも黄金の手癖を大サービス♪♪~♪ 残念ながら往年の浮遊感はあまり感じられませんが、真っ向勝負の姿勢は潔いんじゃないでしょうか。
 演奏はこの後、ビクター・ルイスのカッコ良いドラムソロから、トランペッとテナーサックスの絡み、そしてテーマ合奏というスリルが提供されて、これが一応の大団円になっています。

09 Dear Old Stockholm (Quitet)
 一端、ステージを退いたバンドが再び登場して演奏するのは、この会場で、これが出なければ収まりがつかない人気演目♪♪~♪ もちろんスタン・ゲッツの吹奏はハートウォーム優先主義ながら、随所に往年のクール節を滲ませるというベテランの上手さ♪♪~♪
 またチェット・ベイカーは、なんとマイルス・デイビス風の味わいをやってしまう禁じ手を披露するのですから、憎たらしいですよ♪♪~♪
 というか、ある時期に限ってはマイスル・デイビスよりも、チェット・ベイカーが好きな私ですからねぇ~♪ こんなところで、それが堪能出来ようとは、長生きはするもんです。最高っ!

10 Line For Lyons (Chet Baker & Stan Getz)
 オーラスは再度のアンコールに応えたという企画でしょうか、チェット・ベイカーとスタン・ゲッツのデュオで演じられる和みの一時♪♪~♪ あぁ、この安らぎとクールな余韻がたまりませんねぇ~♪

ということで、チェット・ベイカーの予想外の好調さによって、なかなか楽しめる復刻作品でした。

しかし欲を言えば、この時代の映像にしてはリマスターが甘く、またベースやドラムスに音の迫力が足りません。しかも音量を上げるとヒスノイズが目立ってくるのは減点です。

それでも個人的には「チェット・ベイカーのジャズ」という、刹那の極致に接することが出来ましたから、けっこう何度も鑑賞してしまいました。

ご存じのとおり、この人気スタアは悪いクスリに溺れ、それはこのライプの時点でも同じだったわけですから、それを購うための仕事だったのは疑う余地がありません。しかし、それでも良い演奏をやってくれればファンは満足だし、そんな私生活を云々するよりは、現実の姿を受け入れることもファンの悲喜こもごものひとつかと思います、

そのあたりも飲み込んで、虚心坦懐に楽しめば、このDVDは末長く楽しめる作品になるんじゃないでしょうか。

コメント (4)
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